【フィルムカメラ 001】EBONY 45S(エボニー 4×5)

エボニーの大判カメラは3台所有しています。4×5(シノゴ)が2台、8×10(エイトバイテン)が1台です。
今回は、エボニー4×5について書いていきます。

大判カメラで写真を撮るようになったのは、今から35年前、写真家として駆け出しの頃です。
当時、カナダの風景をテーマに撮影を行っていたのですが、そのとき使っていたのは、6×4.5や6×7の中判カメラでした。
中判カメラで風景を撮れば、深みのある作品を生み出すことが可能でしたが、それ以上のクオリティを求めるとしたら、やはり4×5の大判カメラを使わなければなりませんでした。

私は思いきって購入することに決め、ある日、カメラ量販店に足を運びました。
4×5の大判カメラを作っているメーカーは、リンホフ、ジナー、ディアドルフ、ホースマン、ウイスタ、エボニー、タチハラなどがありましたが、その中で選んだのがエボニーだったのです。
機能性を重視したシンプルな作りなので、大判カメラ初心者の私でもすぐに使えこなせるような気がした、というのが理由の一つですが、何より、クラシックカメラのような懐かしいデザインにグッと引き込まれました。
「エボニーのカメラは大量生産品ではなく、職人さんが一つ一つ手作りで生み出しているです」
店員さんの一言も購入の決め手になりました。


カメラだけでは写真が撮れません。レンズも必要になります。
当時、大判カメラ用のレンズは、日本製ではニコンとフジフイルム、ドイツ製ではシュナイダー、ローデンシュトックが作っていたのですが、当然のことながら、ドイツ製のレンズは高くて手が出せません。
ニコンのレンズ4本を購入し、後にフジフイルムのレンズを含め、足りない焦点距離を増やしていきました。現在6本のレンズを所有しています。


職人の手によって生み出される大判カメラ
エボニーは、風景写真家・坂梨寛美氏によって設立された大判カメラ専門のメーカーです。
東京板橋区にある小さな工房で、坂梨氏と数名のスタッフによって、4×5、8×10、11×14などの大判カメラが製造されています。

エボニーの大判カメラの特徴は、カメラ本体のフレームが、黒檀(エボニー)で出ていることです。黒檀は重硬な木で、昔から高級家具や弦楽器で使われてきました。
金属部分はチタンでできています。黒檀とチタンの組み合わせによって、精度が高く、耐久性があるカメラとなり、フィールドで使うには最高のカメラでした。

現に私自身、30年以上エボニーのカメラを使って写真を撮っているのですが、一度も故障したことはなく、メンテナンスが必要になったこともありません。
驚くほどタフなカメラで、まさに職人魄がこのカメラに注がれていると言えるでしょう。

エボニーの大判カメラのよさは、写真界で徐々に広がっていき、年々使う人が増えていきました。2000年に入ってからは、欧米でも大人気となり、著名な風景写真家がエボニーを選び、作品を生み出すようになっていったのです。

私は15年間ほど1台のカメラで撮影を行っていたのですが、後にもう一台買い足しました。その頃は、社長の坂梨氏と知り合いになっていたので、購入時は板橋区の工房に足を運び、オーダーという形で大判カメラを制作してもらったのです。

この2台は同じに見えますが、実は違います。2番目に買った方は、「スイングアオリ」がなく「ライズアオリ」だけのシンプルな設計になっています。
建築写真ならまだしも、風景写真においてスイングアオリを使うことは少なく、思いきってその機能をカットしてもらいました。

エボニーは使い勝手がいい
20代の頃によく足を運んでいたカナダには、35mmや6×4.5の他に、必ずこの4×5の大判カメラも持って行きました。代表作の何点かは、このカメラで生み出されています。

30代になり、日本の風景をテーマにすると決めたとき、4×5の大判カメラでいくことに決めました。後に出版した写真集『Sense of Japan』 『CEMENT』のすべての作品はこのカメラで撮影を行っています。

しかしここ数年は、4×5の大判カメラを使うことはありませんでした。
なぜなら、2017年頃からフィルムの価格が急激に上がってしまったからです。
たとえば4×5のフジクローム・ベルビア(20枚入り)は、以前は5,000円前後で購入できましたが、現在は24,800円です。フィルムが1枚1240円となると、どうしても大判カメラでの撮影は及び腰になってしまいます。

大判カメラだけに限らず、フィルムを使って作品を生み出してくには大変厳しい時代ですが、それでも細々と続けていきたいと願っているのは、やはりマニュアルのカメラを操作して作品を生み出していくことが楽しいからです。フィルムの世界には、デジタルにはない魅力が隠されています。

旅の途中、心ときめく被写体を見つけたら、三脚を立て、じっくりと構図を練り、そしてシャッターを切る。これこそがまさに写真の醍醐味ですね。

世界中の写真愛好家から愛され続けているエボニーの大判カメラですが、残念ながら、エボニーは2016年秋に大判カメラの製造販売を終了してしまいました。こればかりは時代の流れ、仕方のないことです。
現在、エボニーというメーカーは、この世に存在していません。

しかし、熱狂的なエボニーのファンがまだ世界中にたくさんいることも事実です。
私自身もその一人。この世からフィルムがなくならい限り、エボニーの大判カメラを使って永遠に作品を生み出していくことでしょう。

YouTubeの動画はこちら

#エボニー #EBONY #大判カメラ #4×5カメラ #フィルム写真

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