【連載・写真のひみつ】第53回 撮影テクニック02

加えていく
旅の途中、ときめく風景を見つけたら誰もが立ち止まって写真を撮ることでしょう。撮影後は「いい写真が撮れた!」という満足感を抱きながら、すぐにその場から離れてしまうと思います。

これは実に勿体ない行為です。素晴らしい風景と対峙したら、しばらくその場で粘ってみてください。そして、一つの主題を3〜4倍に脹らませる工夫をしてみるのです。アメリカ、グランドティトンで生み出した作品を例に取り詳しく解説していきましょう。

写真集『MAGIC HOUR』の制作を行っていたとき、表紙に持ってくる作品がなかなか決まりませんでした。先に出版した写真集『BLUE MOMENT』とタイトルの位置を合わせるため、空の面積が広い作品を求めていたのです。

そこで私は、表紙用に新たな写真を撮りに行くことにしました。撮影地として選んだのは、アメリカ、グランドティトン国立公園です。ティトン山脈の優美な姿が、写真集の表紙のイメージにぴったり合うような気がしました。

現地でロケハンをしていたとき、牧場の中にポツンと佇む素朴な納屋を見つけました。背後にはティトン山脈が聳え立っています。風景から何かを感じ取った私は、ここで表紙用の作品を撮ることに決めました。

【作例 1】納屋を撮影する。
【作例 2】柵を加えてみる。
【作例 3】小川と太陽光を入れる。
【作例 4】木と組み合わせてみる。

 

シャッターを切ったとき、「これは決まった!」と思いました。

一つの大きな仕事を成し遂げた気さえしたのです。(作例1) でも私は満足しませんでした。この風景から、さらに別の作品を生み出してみようと考えたのです。

道と牧場との境目で、有刺鉄線が張られた古めかしい木の柵を見つけました。少し後退し、画面の中にその柵を入れて撮影を行ってみます。(作例2)

すぐ近くに小川がありました。この軽やかな水の流れも一緒に撮ってみようと思い立ち、広角レンズに切り替えてベストな構図を探ります。風景をドラマチックに見せるため、眩しい太陽光を画面上部に入れることにしました。(作例3)

シャッターを切った直後、最初に生み出した「納屋と山脈」の作品以上に手応えを感じました。「この作品はいつか出す写真集に使うことになる」という確信も生まれたのです。案の定、2012年に出版した写真集『LIGHT ON EARTH』の一ページを飾っています。

さらに別の作品が生み出せないかと付近に目を配ると、小川の脇にある雑木林の存在に気づきました。林の中に足を踏み入れ、「額縁のテクニック」を使って構図を決め、納屋を捉えます。(作例4)

結果、牧場にポツンと佇む納屋をテーマに、4枚のベストショットを生み出すことに成功したのです。

一つの主題に別の要素を次々とプラスしていくテクニックは、すべての被写体で行うことができます。五島列島上五島の佐野原教会も、全く同じスタイルで作品を生み出しています。

【作例 5】教会をストレートに切り取る。
【作例 6】道と組み合わせる。
【作例 7】森の中から撮影する。

まずは教会の正面からカメラを向け、建物の全体像を捉えました。(作例5)

次に、教会へと続く素朴な一本道と教会を組み合わせてみました。画面の中に「道」を入れることによって物語性をプラスしてみたのです。(作例6)

すぐ横に深い針葉樹の森が広がっていました。私はグランドティトン国立公園のときと同じように森の中に足を踏み入れ、額縁のテクニックを使って構図を決め、シャッターを切りました。(作例7)

五島列島上五島の写真集を作る段階になり、佐野原教会で生み出した3パーンの作品を机の上に並べてみました。どれもお気に入りでしたが、写真集では、最後に撮影した木々と組み合わせた作品を使うことにしました。「内陸部にある唯一の聖堂」ということを写真で伝えたかったからです。

出会った被写体を、幾重ものパターンで撮ることを繰り返していると、最初のときめきが必ずしも正解でないことがわかってきます。やはり作品とは、撮影者が考えながら生み出していくものなのかもしれません。

【次号に続く】

最新情報をチェックしよう!