第48回 構図 08

風景の中から一部分を切り取る

 写真を撮り慣れているハイアマチュアやプロの写真家は、風景の一部分を切り取り作品を生み出していくことが上手いとされています。近年、アップでとらえた作品のみで個展を開催する風景写真家も多くなってきました。

 構図を簡素化する手法は決して難しくはありません。旅をしているときにほんの少し視点を変えるだけで誰でも簡単にできるようになります。今までの私の旅を振り返りながら詳しく解説していきましょう。

 カナダ、プリンスエドワード島に滞在していたとき、海を撮ろうと北海岸まで足を運びました。しかし前日まで続いた長雨の影響で海水は濁っており、イメージしていた青く光り輝く海を撮ることができません。ふと足下を見たら、波打ち際に可愛らしい貝殻と小石が落ちていました。私はカメラの向きを砂浜に切り替えてシャッターを切ります。この作品は、写真集『LIGHT ON EARTH』で発表しました。

 牧草地にポツンと建つ納屋はとても絵になります。中望遠レンズで納屋の全体像を撮っていたとき、納屋が魅力的に感じるのは表面に貼られたコケラ板(杉材)に秘密が隠されていることに気づきました。そこで私は納屋に近づき、コケラ板だけをアップでとらえてみたのです。風景写真からは掛け離れてしまいましたが、この一枚で、プリンスエドワード島の牧歌的な雰囲気を伝えることができた気がします。

 林檎の里アナポリスバレーを巡る途中、鮮やかな夕焼けが発生しました。しかし私は、上空に広がる茜色の雲ではなく、入江で輝く金色の光に心が奪われたのです。世界一潮の満ち引きの差が激しいファンディ湾の土壌は常に濡れている状態です。だからこのような珍しい光景が生み出されたのでしょう。結局この日は夕景の写真は一枚も撮らず、入江の光ばかりを追い掛けていました。

 20代の頃、秋になると必ずローレンシャ高原に足を運び、紅葉をテーマに撮影活動を続けていました。よく晴れた日の朝、森の中のトレイルでチャーミングなカエデの葉と出会いました。2枚が寄り添い、まるで写真を撮ってくれといわんばかりの表情をしています。シャッターを切ったときかなりの手応えを感じましたが、まさかこの作品が、「ローレンシャンの秋」の中で最も売れるオリジナルプリントになるとは想像もしていませんでした。

 カナディアンロッキー、マウントエディスキャベルの麓にある湖に辿り着いたとき、一瞬自分の目を疑いました。聳え立つ巨大な岩山が、湖面にもう一つ存在していたからです。しばしこのダイナミックな景観に陶酔した後、どのように撮ればこの感動が伝わる作品になるかを考えてみました。山と湖の全体像を撮ると、よくある風景写真になってしまいます。かといって湖の映り込みだけだと、観る人から「何で逆さま?」と言われてしまうかもしれません。そこで私は、湖の映り込み部分を強調した縦の構図にし、上に少しだけ境目を入れてみることにしました。

 実はこれと似た撮影を、ドイツ、レーゲンスブルクでも行っています。旧市街の街並みを見事に映し出す静かなドナウ川。この映り込みだけで画面を構成する方法もありましたが、私はあえて堤防を入れて絵作りをしてみたのです。夢の世界から少し現実に引き戻すためでした。

 風景の一部分だけを切り取る手法は、屋内の撮影でも使えます。

 プリンスエドワード島の郊外にオーウェルコーナーと呼ばれる歴史村があります。ここには100年前の雑貨屋、教会、民家、納屋などがそのままの形で残されているのですが、私が特に好きなのは村内にポツンと建つワンルームスクールです。教室内にある黒板、机、ストーブをすべて入れて撮るには、16mmレンズが最も適しています。斜め後ろ、そして横から撮影を行っていたとき、もっと子どもたちの声が聞こえてくるような作品を生み出せないだろうか……と思いました、そのとき机の落書きが目にとまったのです。私はマクロレンズに切り替え、落書きの部分をアップでとらえてみました。この作品は、写真集『プリンスエドワードアイランド』で大きく使っています。

絵画のような作品

 なぜ写真の上級者は、風景の中から一部分だけを切り取る撮影を好むのでしょうか。「天候が悪くても作品が生み出せる」「オリジナリティを出すことができる」「被写体が絞られるので構図作りが簡単になる」などいくつかの理由が考えられます。私自身が最も強く感じているのは、「絵画のような作品を生み出せる」からです。風景の中から余分なものを削ぎ落とし主題を絞っていくと、不思議と、画家がじっくり構図を練ってキャンバスに描き出す絵画のように見えてくるのです。

 写真は真実を映すもの、すなわち一瞬の記録です。作品は被写体でほぼ完結してしまうため、作者の人間性を表現していくのが難しいとされています。しかし絵画の場合は違います。風景を主観的にとらえ、作者の心情や個性を色濃く反映させながら作品を生み出していくことができるのです。私自身、そんな絵画ならではの世界に強い憧れがあり、常に自分の作品を絵画に近づけていきたいと考えているのです。

 一枚で完結している作品は、写真集の表紙に使ってもインパクトがあるし、何より作品額にして壁に飾ると、インテリアの中で引き立ちます。風景の一部分を切り取っていくことは、ベストショットを生み出す近道かも知れません。

【次号へ続く】