【連載・写真のひみつ】第45回 構図05

広角レンズと望遠レンズ
広角レンズや望遠レンズに切り替えて撮影を行っても、構図の作り方は標準レンズのときとまったく同じです。三分割法を考慮し、バランスを取りながら被写体をとらえると、素晴らしい作品が生み出せます。

広角レンズと望遠レンズを比較してみると、望遠レンズの方が構図作りは簡単です。望遠レンズは狙った被写体を引き寄せて撮ることになるので、その時点である程度構図の整理ができているからです。逆に広角レンズの方は広い範囲をとらえることになるので、構図作りに神経を使います。昔から「広角レンズを上手く使いこなせるようになったら上級者」と言われてきました。

望遠レンズの構図作り
「なぜ望遠レンズを使って写真を撮るのか?」と質問すると、多くの人は、「遠くの被写体をアップで撮ることができるから」と答えるでしょう。しかし風景写真家の私は少し異なる考えを持っています。私の場合、「映り込んでしまう不要な部分をカットできるから」です。

撮りたい風景を見つけたとき、「あの部分がなければ……」と思うことがあるでしょう。たとえば、美しい花畑の片隅に廃墟があるとします。広角レンズや標準レンズで花畑をとらえると、どうしても画面の中に廃墟が入り込んでしまう。しかし望遠レンズに切り替えることで、花畑だけで画面を構成することが可能になるのです。このように主題を絞り込んで撮影できるのが、私が考える望遠レンズの魅力です。

中でもよくカットするのは「空」です。風景写真において、空の扱い方は意外と難しい。画面の中に安易に空を入れて撮るとありきたりの作品になってしまうし、仮に空の部分が狭いと不安定な構図の作品になってしまう。空をどうするかで迷ったとき、私は思い切って画面から外してしまいます。

ノルウェー、ロフォーテン諸島で生み出した作品は、意識的に空をカットしています。フィヨルドの上には寒々しい冬空が広がっていました。広角レンズか標準レンズを使えば空を入れて撮ることも可能でしたが、私はあえて望遠レンズを選択し、フィヨルドの一部分だけで画面を構成してみたのです。すると主題は「フォヨルド」と「民家」の二つに絞られ、構図作りがとても簡単になりました。風景作品の中に空がなくても何ら問題ありません。観る側は、「このフィヨルドはどのくらいの大きさなんだろう……」「どんな空が広がっているんだろう……」と想像力をかき立てることができるからです。

あえて空を撮らないことで、フィヨルドの高さを表現した。

望遠レンズを使うことによって発生するボケも、構図作りを簡単にしています。

レンズの絞りを開放近くで撮ると、ピントが合っていない範囲は激しくボケてきます。つまり狙った被写体のことだけを考えて構図を練ればいいことになるのです。

200mmのレンズで観世音菩薩を撮影してみました。絞りを開放にすると、周辺部の木々はボケて彫刻の存在感が増していきます。私はカメラを左右に振り、主題が最も安定する位置を選び出し、シャッターを切りました。

もちろん、望遠レンズでも最大限に絞り込めば、ピントが合う範囲は広くなります。この被写体であれば、木々の枝葉がはっきりしてくるでしょう。その場合、主題が増えることになるので、構図には気を使って撮影を行わなければいけません。

望遠レンズを使って周辺部をぼかすことにより、構図作りが簡単になる。

広角レンズで風景を撮る
駆け出しの頃、カナディアン・ロッキーを訪れました。4000メートル級の岩山、エメラルド色をした湖、深い緑を持つ針葉樹の森に感動し、広角、標準、望遠と次々とレンズを切り替え、たくさんの写真を撮りました。
帰国後、現像が上がったフィルムをチェックしてみたら、なぜか広角レンズを使って生み出した作品だけ弱さを感じたのです。風景と対峙したときの感動が作品から伝わってきませんでした。その原因はすぐにわかりました。目の前に広がるすべての対象物を一度に撮ろうとしたため、主題が曖昧になってしまったのです。

では、ダイナミックな風景を広角レンズで切り取り、納得のいく作品を生み出すにはどうすればいいかーー。いま私は、4つのパターンで撮影を行うようにしています。

レイク・ルイーズの撮影を例にとってみましょう。

まずは、目の前の風景を何も考えずにストレートに切り取ります。このとき構図に関してはそれほど意識せず、感じるままにファインダーで風景をとらえてみるのです。私はこのようなありきたりの作品を撮ることも大切だと考えています。

次に、空の部分を広く取り、山と湖の部分を狭くして撮影を行います。もちろん湖が切れても気にしません。空が大きくなったことで、その場の空気感のようなものを伝える作品に仕上がるはずです。

3カット目はこの逆パターンです。湖を広く取り、山を狭くして撮影を行います。空はカットしてもいいでしょう。湖を主題にすることで、カナディアン・ロッキーが秘めた自然の美しさを強調することができるのです。

そして最後に行うのが、クローズアップの撮影です。足下にある花や木、岩にグッと近づき、それをアップでとらえるのです。絞りは開放でも問題ありません。対象物にさえピントが合っていれば、背後の湖、岩山、空がボケていても大丈夫です。

広角レンズを使って風景を切り取るとき、このようにパターンを変えて撮影を行い、そして最後に何か一つの対象物に思い切り近づいてみる。私はこの方法で、今まで数多くのベストショットを生み出してきました。

別の要素をプラスする
広角レンズは広い範囲を撮ることが簡単にできます。画面の中にあえて別の要素を入れ込むことを積極的に行ってもいいでしょう。

セント・アンドリュースを旅しているとき、民家がポツンと建つ美しい入江を見つけました。この場の開放的な雰囲気を大切にするために広角レンズを選びましたが、草原と入江だけではどうしても単調な作品になってしまいます。何かないだろうか……と探していたときに、一本の枯れ木を見つけました。インパクトある主題が加わることにより、絵画を彷彿とさせる作品に生まれ変わったのです。

広角レンズで人物を撮る
カナダで暮らしていたとき、世界中の歴史や文化、自然の魅力を伝える月刊誌を定期購読していました。なぜなら写真が素晴らしかったからです。たとえば農場で働く人々をとらえた作品。夕陽を浴びてトラクター運転する農夫、近くには畝で作業をする別の農夫いて、向こうの方には子どもたちが犬と遊んでいる、といった感じで、1枚の作品の中にストーリーが閉じ込められていました。

私は雑誌に掲載された作品を見るたびに、外国人の写真家は人物写真が上手いなあと思ってばかりいました。そして当然のことのように、どうやったらこのような力強い作品が生み出せるんだろう……と興味を抱いていたのです。

アトランティック・カナダを旅していたとき、偶然その雑誌の取材現場に出くわしました。アメリカ人の写真家はとても気さくな方で、快く見学を許可してくれたのです。

レンズは21mmの広角レンズを使っていました。被写体となる老夫婦にグッと近づき、カメラを右や左に振ってこまめに構図を切り替えながらシャッターを切っていきます。そして興味深いことに、写真家は老夫婦に積極的に声をかけていました。ときには立ち位置やポーズ、目線を指示するのです。そう、まさに映画でも撮るような感じでスチール写真を生み出していました。

私の脳裏には、いつか写真のテキストで読んだ「一枚の作品は作り出してくもの」という言葉が蘇りました。そして思いました。このような撮影ができる日本人の写真家は少ないだろうな……と。日本人は、ただ被写体にカメラを向けてシャッターを切るだけです。見ず知らずの人と話をしたり、ときに写真家がポーズを指示するようなことはしません。特にドキュメンタリー写真は、「静かに撮る」「ありのままを撮る」ことが美徳とされており、そこに少しでも「演出」の要素が加わると、その作品はドキュメンタリーではなくコマーシャルに分類されてしまうのです。

でもその写真家の撮影スタイルは、演出とは違う、もっと自然なものでした。そう、望遠レンズで不要な部分をカットしたり、広角レンズで被写体をアップでとらえデフォルメしたりする、構図作りの延長線上にあるテクニックのような気がしたのです。

私は人物にカメラを向けるとき、アメリカ人の写真家がやっていた撮影スタイルを真似てみることにしました。

標準レンズから、あえて広角レンズに切り替えて撮影を行います。人物を思いきり引き寄せ、左か右に生まれた空間に、窓枠、花、光などを入れていきます。被写体にも積極的に声をかけました。この位置に立ってほしい、こんなポーズを取ってほしい、こんな表情をしてほしいと次々と注文をつけ、シャッターを切っていくのです。2006年の写真集『林檎の里の物語』、2012年の写真集『RESPECT』には、そんな撮影スタイルの中から生み出した作品を何点か発表しています。

かつて私の中では、広角レンズと言えば28mmでしたが、いざ人物の撮影をはじめてみると、この画角では全然足りないことに気づきました。私は新たに16mm〜35mmズームレンズを購入し、人物を撮るときのメインレンズにしたのです。そしていまでも旅先で人物にカメラを向けるときは、20mm前後の広角レンズを使って撮るようにしています。

どの作品も16〜35mmの広角ズームレンズを使い、かなり密にコミュニケーションを取りながら撮影した。

【次号へ続く】

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