第43回 構図 03

基本は三分割法

 安定感のある構図で生み出された作品は、観た途端、スッと作品世界に入っていくことができます。逆にそうでない作品は、まず「ん? 何かが違う」「写真が下手だな」と感じてしまうことでしょう。では、その安定感ある構図とはどのような作品のことを言うのでしょうか。

 写真には、被写体を3つに分けて捉える3分割法というのがあります。たとえば目の前に空と海が広がっていたとします。空1、海1でなく、空1/3、海2/3、もしくは空2/3、海1/3にして写真を撮るのです。そうやって生み出された作品は、不思議と人の目には美しく見えるようになるのです。

 この3分割法の元になっているのが、デザインや建築の場でよく取り上げられる「黄金比」です。2本の線の配分は、比率1:1.618が最も美しいとされています。この比率で出来た長方形の中に新たな長方形を入れ込んでいくと、黄金螺旋(フィボナッチ数列1、1、2、3、5、8、13、21、34、55……)という優美な図形を描き出すことができます。ヒマワリ、シダ、微生物、ハリケーンなど、自然界に無数に存在している「究極の美の形」です。

 エジプトのピラミッドは黄金分割で造られています。古代ギリシャの数学者たちによって黄金分割の原理が確立され、広く知れ渡るようになりました。パルテノン神殿、ミロのヴィーナス、ルネサンス期には、レオナルド・ダ・ビンチのモナリザ、最後の晩餐と、ありとあらゆる建築や彫刻、絵画の世界で、黄金分割がベースとなり作品が生み出されていきました。現代でも、私たちがよく知るアメリカの巨大IT企業のロゴをはじめ、黄金分割を考慮したものがたくさんあります。

 縦横比3:2のイメージセンサーを持つフルサイズのデジタルカメラは、黄金分割に極めて近い写真が撮れると言ってもいいでしょう。つまり整った長方形の中に、黄金分割を意識した被写体の捉え方をしていくと、誰の目にも美しい構図の作品になっていくのです。

ほぼすべての作品が三分割法で生み出されている

 写真人生の中で生み出した何百万枚という作品は、その半数以上が三分割法を考慮した構図になっています。

 カナダ、ノバスコシア州ペギーズコーブには、海に飛び出た形で花崗岩が鎮座し、その先に白い灯台がポツンと建つ風景があります。見事に空、海、陸の3つに分類されるため、三分割分法が発揮できる稀有な場所と言えるのかもしれません。

 写真集『BLUE MOMENT』の表紙になった代表作も、三分割法を意識して生み出されています。真っ青な空の部分にタイトル文字が入り、シルエットの灯台と絶妙のバランスを見せていますが、もちろんこの作品を撮ったとき、写真集の表紙に採用されるとは思ってもいませでした。たまたま空2、花崗岩1の比率の構図にしてシャッターを切ったのです。

 同じ場所から夕景を捉えた作品は、花崗岩2、空1になっています。赤い夕陽に染まる岬を強調したかったので、このような空を切り詰めた構図になりました。

 ベギーズコーブから車で1時間ほど走ったとこにある世界文化遺産ルーネンバーグの景観も、三分割法で撮影を行っています。緑の丘、樹木、入江、街並み、そして森とたくさんの要素が入っていますが、私の頭の中では、空・海・陸の3つに整理し、構図を作り出しているのです。

 横位置で被写体を捉えるとき、縦に三分割することもあります。写真集『プリンス・エドワード島』の表紙に採用され、オリジナルプリントでもロングセラーとなっているリンゴの花の作品は、左の花、小径、右の花の縦の三分割法です。大胆な構図でイタリアの教会を捉えた作品も、縦にラインがあることがわかるでしょう。

 風景の中にポツンと存在する建物を撮るとき、それを画面のどこに入れればいいか迷うかもしれません。縦横の三等分に割ったその線の交わるところに置くといいでしょう。イタリア、サンマッダレーナの作品は、そのようにして聖堂の位置を決めました。

 私は高校時代に、すでに三分割法で写真が撮れるようになっていました。フォトエッセイ集『こわれない風景』には、当時の頃に生み出した作品を何点か紹介していますが、驚くことにすべての作品が三分割法になっていることがわかります。

 もちろん、当時は構図のことなどあまり意識しなかったし、黄金分割という言葉も知りませんでした。絵画や写真の世界では、構図の作り方が上手い人のことを「絵心がある人」と言っています。もしかしたら私は、生まれたときから絵心には恵まれていたのかもしれません。

構図は練習することで上手くなる

 三分割法で写真を捉えていくやり方は、誰でも練習すれば出来るようになります。

 たとえば海や大地の風景を撮るとき、水平線や地平線を画面のど真ん中に入れるにではなく、上下どちらかに移動してみてください。一人の人物を撮るときも、センターではなく、右や左に寄せて撮ってみるのです。少し移動するだけで、証明写真から芸術写真に生まれ変わるのがわかるでしょう。

 構図作りの目安となるのが、カメラのファインダーの中にあるグリッド線です。フィルムカメラはわざわざファインダースクリーンを交換しなければなりませんでしたが、デジタルカメラはこのグリッド線を簡単に表示できるようになりました。安定感ある構図の作品をなかなか生み出せない人は、ファインダーに常にこのグリッド線を表示させて写真を撮ってみるといいでしょう。横にも縦にも風景を三分割することが簡単に出来ますし、何か一つの対象物を捉えるときも、その線が交わるところに持っていくだけでいいのです。

ときには二分割法で

 もちろんすべての被写体を三分割法で撮らなければいけないというわけではありません。上空に魅力的な雲が広がり、大地には美しい花畑がある風景があるとします。そのどちらもカットすることができない場合は、無理せず、二分割法で写真を撮るといいでしょう。

 カナダ、プリンスエドワード島の代表作「春の小川」は、雲と小川の流れを伝えたかったので、あえて民家と樹木をど真ん中に置いて作品を生み出してみました。ケープトラインの夕暮れの作品も、水平線が上下のセンターにあることがわかります。

 冬のノルウェーを訪れたとき、湖が鏡のように凪ぎ、切り立つフィヨルドがその湖に見事に映り込んでいました。私ははやる気持ちを抑えながらカメラを三脚に据え、ファインダーを覗いて構図を整えます。まずはフィヨルドを1/3、湖を2/3で撮影し、その後、比率を逆にしたパターンでも撮ってみました。

 シャッターを切るごとに、背後の液晶モニターで作品を確認してみましたが、なぜかしっくりきません。そこで三分割法は無視して、フィヨルドと湖の境目を画面のど真ん中に置き、上下にある被写体を二分割法で捉えてみたのです。すると、デザイン画とも言えるユニークな作品を生み出すことに成功しました。

【次号へ続く】