【連載・写真のひみつ】第19回 シャッタースピード

シャッタースピードとは
写真撮影を行う前に、「シャッタースピード」と「絞り」の関係を理解しないといけません。カメラを上から見ると、数値が書かれた幾つかのダイヤルがあることに気づくでしょう。ダイヤルがボディの前面か背面にあり、数値は液晶パネルに表示されるようになっている機種もあります。

カメラ機能が搭載されたスマートフォンは、表面がツルンとしておりダイヤルはどこにも見当たりません。ではなぜ一眼レフやミラーレスカメラにはダイヤルを残しているかというと、物理ダイヤルが搭載された機種の方が人気が高いからです。モデルチェンジでいったんはダイヤルをなくしても、次のモデルチェンジでは物理ダイヤルを復活させた、というカメラが何台もあります。そしてこの私も、ダイヤルがあるカメラを好んで購入しています。

写真は、いかにして瞬間を切り取れるかで勝負が決まります。咄嗟に判断しなければならないとき、物理ダイヤルだとミスが少なくなるのです。スマートフォンの場合、焦った状態で電話をかけようとすると、別のアプリのボタンを押してしまったり、アドレス帳からの呼び出しで戸惑うことがよくあります。他人にスマホを渡して記念写真を撮ってもらうときも、シャッターボタンの位置が解らなかったり、カシャカシャカシャと突然連写モードになったりもします。

ダイヤルに書かれている1 2 4 8 30 60 125 250 500 1000 2000 4000 8000と倍になっていく数値が、シャッタースピードになります。1は、1秒間シャッターが開き、8が1/8秒、60が1/60秒、1000が/1000秒という意味です。

1〜1/8000の数値がシャッタースピード。一眼レフやミラーレスは、物理ダイヤルの方が圧倒的な支持を集めている。

シャッタースピードを1秒に設定して写真を撮ってみましょう。当然1秒もの間、手にしたカメラをピタリと静止させることは不可能なので、生み出された写真はブレブレの状態になってしまいます。1/4も1/8も結果は同じです。1/60にすると、被写体はブレずに写るようになります。つまり1/60を境に、数値が上に行けば行くほど、ブレのない綺麗な写真が撮れるようになるのです。1/1000以上になると、どんなにカメラを構えるのが下手な人でも、狙った被写体は静止して写ります。

私が高校生の頃に使っていたオリンパスOM10は、1/1000が最も早いシャッタースピードでした。当時ニコンが、世界初となる1/4000という驚異的な早いシャッタースピードを搭載したFM2というカメラを出したのです。広告写真には、空を飛んでいるヘリコプターのローターがピタリと止まった状態で写った写真が使われており、「ニコンの高速シャッターって凄いんだなあ〜」と何度も食い入るようにその一枚を見ていた覚えがあります。

シャッターの形式
このとてつもない精度を持ったシャッターは、撮影素子(センサー)の前に設置されています。最も多くのカメラに採用されているのは、黒い2枚の羽根が連動して動く方式の、フォーカルプレーンと呼ばれているシャッターです。先幕が下りると露光がはじまり、後幕が下りると露光が終わります。

もう一つ、レンズの中にシャッターが組み込まれている、レンズシャッターというのがあります。私が好んで作品作りで使っている4×5や8×10といった大判カメラは、カメラ本体に電子部品や機械類はありません。ではなぜそんなシンプルな木箱で瞬間を切り取る写真が撮れるかというと、前面に取り付けたレンズにシャッターが内蔵されているからです。もちろん電池がなくても動くメカニカルシャッターとなります。

当然、シャッターが閉じている状態では、レンズからの光はカメラに入ってこないので、カメラ背面にあるファインダースクリーンは真っ暗な状態です。構図を決める際、まずはレンズのシャッターを開けます。構図が決まったら、シャッターをいったん閉じ、フィルムをセットした後、レリーズを使ってシャッターを切ってあげるのです。フォーカルプレーンシャッターと原理は同じですが、レンズシャッターになると、シャッターブレが起きにくいというメリットがあります。フィルム時代、僅かなブレさえも許されないジュエリーの撮影で、写真家は、カメラにレンズシャッターが搭載されたレンズを装着し、写真を撮っていました。

8×10フィルムカメラ。レンズの部分にシャッターと絞りがある。いま、1/2秒に設定している。

ミラーレスカメラの普及と共に、メカシャッター、レンズシャッターに変わる新たなシャッターが主流になってきました。センサー自体にシャッター機能を持たせる電子シャッターと呼ばれるものです。メカシャッターにある先幕と後幕の動きを、電子的に制御して行うのです。この電子シャッターには、1/32000秒という高速でシャッターが切れる、サイレント撮影が可能になる、ブレが抑制出来るなど、いくつものメリットがあります。

だとしたら、メカシャッターではなく、電子シャッターにすべて切り替えてしまえばいいと思われるかもしれません。しかし電子シャッターには幾つかの問題点があることも事実です。例えば高速で動いている被写体、蛍光灯などの照明下にある被写体を撮ると、像が歪んだり、帯状のムラが発生することがあります。そう、電子シャッターは、すべての条件下で完璧な作品を生み出すのはまだ不可能で、そのためどの上級機にもメカシャッターは必ず搭載されています。しかしデジタルの世界は日進月歩です。やがて電子シャッターの弱点がカバーされる日が来るかもしれません。

ミラーレスカメラの上級機では、撮影者が被写体に応じてシャッターの方式を選べるようになっています。例えば私が風景撮影でよく使うミラーレスカメラ、FUJIFILM GFX50Rには、5つの切り替えがあります。

●メカニカルシャッター
●電子シャッター
●電子先幕シャッター
●メカニカルシャッター+電子シャッター(自動切り替え)
●電子先幕シャッター+電子シャッター(自動切り替え)

じっくり構えて撮影を行う風景撮影であればメカニカルシャッターがベストですが、私はこの中で「電子先幕シャッター」を好んで使っています。例えばヨーロッパの薄暗い大聖堂の内部を手持ちで撮影する際、先幕だけ電子の力を借りることにより、極限までブレを抑制できるのです。繊細なフレスコ画や彫刻をシャッタースピード1/15の手持ちで撮影することがよくあります。露光後、つまりシャッターを閉じる際の後幕は、メカニカルシャッターでも問題ありません。

電子先幕シャッター、シャッタースピードは1/15。手持ちでもブレることはない。ここ数年、聖堂内の撮影では三脚を使わなくなった。

もちろんメカシャッターのみを搭載している一眼レフも、作品作りでは積極的に使っています。理由は、ミラー跳ね上げ時に発生する「音」に惹かれているからです。カシャ、カシャ、カシャと「写真を撮っている感」は、旅や撮影のモチベーションを高め、いい作品作りに一役買っています。電気自動車やハイブリットカーは滑るようにス〜ッと動いて行きますが、車好きの誰もが、「車を運転している感」がないのでハンドルを操る喜びがないと言います。それと同じですね。

ただし、一眼レフの場合、ブレには細心の注意を払っています。ブレの多くは、メカシャッターではなく、ミラー跳ね上げ時に発生しています。そのため低速で撮るような被写体は、必ずミラーアップをしてからシャッターを切るようにしているのです。木曽川にあるダムと発電所を捉えた写真集『RIVER 木曽川×発電所』は、ほぼすべての撮影をPENTAX 645Zで行いました。全写真、三脚を使い、尚かつミラーアップをしてからシャッターを切っています。

シャッタースピードを使い分ける
では、このシャッタースピードの変更は何故必要なのでしょうか。それは、シャッターが開いている時間を切り替えることによって、生み出す作品の表現を多様にできるからです。

例えばスポーツ写真。アスリートがピタリと止まって写っています。これは写真家が1/4000や1/8000といった高速シャッタースピードに設定して撮影を行っているからです。動物、鉄道、飛行機、車と、被写体が静止して写っている写真はすべ高速シャッターによって生み出されています。

よく駅貼りの観光ポスターで、川や滝の水の流れが白い線となって写っている叙情的な風景写真を目にします。それらはすべて低速シャッタースピードを使って生み出されています。1秒〜1/4秒に設定すると、白い飛沫を上げて流れている水は、綺麗な線となって写るのです。もちろん低速シャッタースピードのときは、三脚が必要になってきます。

シャッタースピードを1秒に設定し、三脚にカメラを固定して撮影する。低速シャッターにすると、このような叙情的な作品が簡単に生み出せる。

実はもう一つ、B(バルブ)と呼ばれるシャッターがあります。通常Bは1秒の横にありますが、独立したスイッチでBを選ぶカメラもあります。Bに設定すると、シャッターの開け閉めを手動で行うことができるようになります。夜空に星が線のように流れている写真。これは撮影者がBに設定し、シャッターを2〜3時間開けて捉えているのです。

以前、フイルムカメラを使ってのブルーモーメントや夜景の撮影では、このシャッターBが欠かせませんでした。しかしデジタルカメラになってから、1秒よりさらに長いシャッター、10秒、15秒、30秒と、カメラが自動で最適なシャッターを導き出してくれるようになったのです。そのためBの出番が少なくなっているのも事実です。

シャッターをB(バルブ)にして、40分ほどシャッターを開けた。星は流れるように映っている。

【次号へ続く】

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