第18回 JPEGとRAW

カメラにメモリーカードを入れる

 カメラとレンズを手に入れた皆さんは、早く写真を撮りたくてウズウズしていることでしょう。机の上には、書店で買った「初めての一眼レフ&ミラーレス」というような本が何冊か置かれているかもしれません。

 まずはその本のページを開いてみてください。口絵には、著者が撮った素晴らしい写真と共に、写真という趣味が加わると人生が楽しなるというような文章が書かれているでしょう。読みはじめるとどんどんと期待感が膨らんでいくはずです。しかし、5ページ、6ページあたりから、「ん」と感じてくるかもしれません。そう、「ホワイトバランス」とか「JPEG、RAW」とか「ダイナミックレンジ」とか、何やら横文字の専門用語ばかり出てきて、途端に難しくなってくるからです。メカに弱い人は、まずはここでデジタルカメラに拒否反応を示すと言われています。でも、ご安心ください。それらの小難しいことは、写真撮影を楽しむ上でそれほど重要ではないのです。ホワイトバランスやダイナミックレンジなどは、料理で使うスパイスのようなものだと思ってください。当然、スパイスがなくても料理は作れます。

 40才以上の方は、過去に一度は買ったことがあるフイルムカメラ。カメラ背面にある裏蓋を開け、本体にフィルムを詰め、そしてシャッターを切るだけで写真を撮ることができました。基本、デジタルカメラもそれと全く同じです。画像の記録がフィルムからメモリーカードに切り替わっただけなのです。

まずはフォーマットから

 手に入れたデジタルカメラに、メモリーカードを挿入します。通常、側面にカードスロットがあり、そこに差し込むだけです。買ってきたメモリーカードは、工場出荷時点でフォーマット(初期化)処理が行われているので、そのままの状態でも使うことができます。しかし念のため、自分でもカードのフォーマットを行った方がいいでしょう。このフォーマットは、メモリーカードを、そのカメラに合わせた最適の状態にする、という役割も担っているからです。メモリーカードのデータをすべて使い切り、そのカードを再利用する際も、画像を一点一点消去していくのではなく、フォーマットによって一斉消去をして下さい。パソコンのハードディスクもそうですが、使っていくと断片化する割合が増え、データの書き込みスピードが遅くなったり、エラーが発生したりするからです。ただし初期化をすることによって画像はすべて消えてしまうので、くれぐれも注意してください。(厳密には、初期化しても画像は残っているので、復元ツールを使えば復元は可能です)

 初めてカメラを手に入れた多くの人が、メモリーカードのフォーマット(初期化)の仕方がわからないと言います。どのカメラも、メニューの項目に「フォーマット」というのがあります。ここを押すと「すべてのデータが削除されます。よろしいですか?」と聞いてくるので、「実行」のボタンを押すとフォーマットがはじまります。ただ困ったことに、この「フォーマット」が、メニューの中で実にわかりにくい箇所にあるのです。私もメモリーカードを初期化するたびに、「あれ、フォーマットってどこだっけ」とブツブツ言いながら項目の中から探しています。もしかしたらメーカー側は、撮影者が誤って全データを消去しないように、わざと「フォーマット」を奥に引っ込めているのかもしれません。

二つの保存形式

 メモリーカードのフォーマットが終わると、スタンバイOKになります。フィルムがカメラにセットされたと同じ状態です。しかし撮影の前に、もう一つ、画像データの保存形式を設定しなければなりません。その保存形式には、「JPEG」(ジェイペグ)と「RAW」(ロウ)の二つがあり、初期の状態では、JPEGのみが記録されるようになっています。

 JPEGとは、静止画像を圧縮保存するファイル形式の一つです。カメラが捉えた光は、そのままの状態では大き過ぎて使いものになりません。カメラ側が、その光を効率よく整理し、自然で美しい画像を生み出し、圧縮して使いやすい状態にして我々に提供してくれる、それがJPEGです。皆さんが普段スマートフォンで生み出している画像、メールでやり取りしている画像はすべてがJPEG、と言えば親しみがわくでしょう。JPEGは汎用性に優れており、どのパソコンやスマートフォンでも開くことができるのです。

 ではRAWとは何でしょうか。通常、カメラのレンズが捉えた光は、イメージセンサーを通過した後、画像処理エンジンによって生成され、圧縮されてJPEGに生まれ変わります。それらを一切行わない状態、つまり、デジタルカメラのイメージセンサーが取得したすべての光の情報が詰まったものがRAWになります。RAWは「生のデータ」であるため、カメラ以外のモニターでは画像を見ることが出来ません。RAWデータを展開して画像を生み出すには、専用のソフトが必要になってきます。カメラを買うとついてくるDVDにメーカー純正のソフトが入っています。しかし多くの人は、フォトショップやライトルームなどの専用ソフトを使い、RAWデータを展開する方式を選んでいます。ソフトを使ってRAWから画像を生み出すことを、「現像する」と言います。フィルム時代を生きてきた人には、現像とは水を使って行うイメージですが、デジタルではパソコンを使って現像をするのです。

 ではなぜ、このRAWデータが必要になってくるのでしょうか。プロやハイアマチュアは、画像を生み出す作業をカメラ任せにするのではなく、すべてを自分で行いたい、という人が多くいるからです。RAWを使えば、現像時に、露出、色調、コントラスト、シャープネスなど、一つ一つ思い描いた通りにコントールし、一枚の作品を生み出すことが可能になるのです。また、JPEGは、非可逆圧縮という特徴があるため、一度圧縮したデータを元に戻すことは出来ません。しかしRAWがあると、それを使って何度でも表現を変えた形で画像を生み出していくことが可能になるのです。

 デジタルカメラが普及しはじめた頃、よく写真教室では、アマチュアの皆さんから「JPEGとRAW、どちらで撮ればいいですか?」という質問が出されていました。その答えは写真家によってまちまちでした。「JPEGのみで十分だよ」と考える人もいたし、「絶対にRAWも撮るべきだと」と強く言っていた人もいました。

 では、私はどうしているかというと、すべての撮影において、JPEGとRAWの同時記録を行うようにしています。しかし、実際に使用しているのはJPEGの方です。作品のセレクト、プレゼン用のデータ送付は当然JPEGですし、雑誌の口絵などの入稿データもすべてJPEGを使っています。2019年に行った写真展『Du CANADA』は、大判のパネル60点を展示する大きな作品展でしたが、すべてJPEGからプリントの制作を行いました。

大判の作品額60点を展示した写真展『Du CANADA』。すべてJPEGを使ってプリントを行っている。RAWを展開してこの自然で美しい色彩を出すのは至難の業だし、何より膨大な時間が掛かってしまう。

 実際のところ、RAWの出番はないに等しいのですが、写真集を作るときだけ、RAWから展開していくようにしています。JPEGではなくRAWを使うというのは、単なる気持ちの問題です。

 RAWを現像し、レタッチを行って思い通りの作品に仕上げるには、かなりのスキルが必要となります。私自身、ある程度はできるのですが、「画像処理のプロ」と呼べるまでには到達していません。知識と経験を積み重ねて、達人の域を目指すことも可能でしょう。しかし私は、あえてその世界に踏み込んでいきたくないのです。パソコンを使うと、彩度やコントラストを強めたり、余分なものを消したりと何でも出来てしまう。その「デジタルで作られた作品世界」がどうしても苦手なのです。作品は、可能な限り自然なままで表現していきたい。一枚の作品を完成させるのに画像処理で何時間も掛けるとしたら、その時間を、撮影テーマのリサーチや原稿を書くことに当てていきたいのです。

 写真集の制作時は、まずは自分自身でRAWの現像とレタッチを行います。その際、画像を生み出すという基本操作のみで、いじり過ぎることはありません。完成率20%くらいのデータ(JPEGまたはTIFF)を印刷会社に入稿し、あとの画像処理はその道のプロに任せているのです。この辺りの流れは、後章で詳しく書こうと思います。

 撮影時、JPEGとRAW、どちらの記録方式を選ぶかは、カメラやレンズ選びの時のように、二つに分かれるでしょう。写真はあくまで趣味の範囲、旅の思い出や子どもの成長記録、ブログやインスタグラム用としての使用に限るとしたら、JPEGのみで十分です。RAWを記録する必要はありません。これから写真を本格的にやっていきたい、いつかプロになりたいと考える人も、基本JPEGのみで問題ありませんが、必ずRAWも記録するようにしてください。今使う予定がなくても、いつか役立つ日が来るはずです。

 デジタルカメラが普及しはじめた頃、雑誌の仕事で海外に行く機会が多くありました。すべてJPEGだけで撮影を行っていたのですが、実は今、当時生み出した作品を企業カレンダーや広告などに使うことがあるのです。今のカメラだったら、JPEGでも十分に大伸ばしが可能です。しかし当時のカメラは、画素数が低く、JPEGの色再現もあまりよくありませんでした。当時、RAWも同時記録していたら、今の現像&レタッチ技術でいくらでもいい作品を生み出すことができたのに……と激しく後悔しているのです。それ以降、必ずRAWも同時記録するようになりました。

15年ほど前、プリンスエドワード島で生み出したベストショット。当時、JPEGのみで撮影を行っていた。当時のデジタルカメラは、色の再現性が悪く、せっかくの作品が台無しになってしまった。RAWも記録していれば、今の現像&レタッチによってこの作品は救われていただろう。

JPEGは優秀です

 今の時代、それぞれのカメラが生み出すJPEGは、とても素晴らしい画像を私たちに提供してくれます。各カメラメーカーは、自社が生み出すJPEGに絶大な自信を持っており、まさにこの部分の絵作りこそが、メーカーの個性を発揮できるポイントになっているのです。たとえばキヤノンには、「オート」、「スタンダード」、「ポートレート」、「風景」、「ディティール重視」、「ニュートラル」、「忠実設定」、「モノクロ」の8つのピクチャースタイルがあります。ペンタックスのカスタムイーメージにある「ほのか」と「銀残し」は大人気で、これで作品を撮りたいからペンタックスのカメラを選ぶという人が多くいます。富士フイルムのフイルムシミュレーションは、「プロビア」「ベルビア」「アスティア」「アクロス」など、フィルムと全く同じ色で画像を生み出すことが可能で、このわかりやすさがFUJIFILMの人気に一役買っています。

 JPEGは、画像サイズと圧縮率を選択することができます。画像サイズは「スーパーファイン」「ファイン」「ノーマル」から選べ、圧縮率は、「ラージ」「ミディアム」「スモール」らから選択することが出来ます。例えば記念写真やインスタグラムのみの使用であれば、最も小さい「ノーマル」×「スモール」で十分だと言われており、メーカーもそれを推奨しています。しかし私は、これに関しては懐疑的です。小さなサイズで写真を撮るとしたら、スマートフォンのカメラで十分であり、せっかくのレンズ交換式のデジタルカメラを使う意味がなくなってしまうからです。JPEGは、どんな被写体でも「ファイン」×「ラージ」の最大サイズで撮るようにしてください。まさに大は小を兼ねるのです。

 フォトコンテストの現場では、よくこんなことがあります。賞に輝いた写真は、パネルにして作品展の会場に展示されます。パネルを制作する際、撮影者からJPEGを送ってもらうのですが、「スタンダード」×「スモール」で撮影された小さなデータが多く、結果として大伸ばしに耐えることができないのです。そのため、優秀賞であるにも関わらず四切サイズのプリントでの展示となり、逆に大きなJPEGで撮影していた佳作の作品が大伸ばしで展示される、ということがよくあります。本人はまさか自分の写真が入賞するとは思っていなかったのでしょうが、「ああ、JPEGの最大サイズで撮っていてくれたらな……」と主催者側は残念がっているのも事実なのです。

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