【連載・写真のひみつ】第12回 イメージセンサーについて

サイズはどれを選ぶか
デジタルカメラを選ぶ上で、検討しなければならない点がいくつかあります。その一つはイメージセンサー(撮像素子)のサイズです。

イメージセンサーは人間の「目」となる重要な部分で、カメラの中ではかつてフィルムが光を受けとめていた位置に設置されています。レンズを通して送られてくる光は、イメージセンサー表面にあるカラーフィルターを通過することによって、R(レッド)G(グリーン)B(ブルー)に分離されます。このアナログの電気信号は、ADコンバーターと呼ばれる装置によってデジタルデータに変換され、その後、画像処理エンジンによって、ホワイトバランスやシャープネス、コントラストなどの演算処理を加え、人が見えることができるカラー画像となるのです。

そのイメージセンサーはCCDとCMOS(シーモス)の2種類で、現在は、消費電力が少なく高感度撮影時のノイズが少ないCMOSの方が主流になっています。色の再現性はCCDの方が優れていますが、技術の進歩により、現在は両者の画質の差はほとんどなくなりました。

サイズは、主なものに「フォーサーズ(17.3mm×13mm)」と「APS-C(23.6mm×15.8mm)」と「フルサイズ(36mm×24mm)」があり、当然大きくなるほど製造コストが上がっていきます。どのサイズのイメージセンサーを採用しているかで、カメラの価格が決まってくると言っても過言ではないでしょう。ちなみにスマートフォンに内蔵されているイメージセンサーは、小指の爪くらいの大きさ(6.2×4.6mm)、APS-Cの1/13です。

カメラを買うことになる人は、まずイメージセンサーのサイズで迷います。当然、大きなセンサーになればなるほど、多くの情報量を取り込むことができるので、クオリティの高い画像を生み出すことができます。例えば私が好きなマジックアワーやブルーモーメントの薄暗い時間帯にカメラを向けた場合、大きなイメージセンサーであれば、淡い光で作られるグラデーションを的確にとらえることが可能になるのです。だったらフルサイズセンサーのカメラを選ぶと間違いない、と思うかもしれませんが、必ずしもそれがベストとは限りません。

たとえば皆さんが生み出したお気に入りの風景写真をA3くらいの大きさに引き伸ばしてプリントし、部屋に飾るとしましょう。このくらいのサイズであれば、フォーサーズ、APS-C、フルサイズのどのセンサーで撮った写真なのかはまずわかりません。グラデーションの部分をルーペで拡大したとしても、その違いに気づく人はまずいないでしょう。

中判センサー(43.8㎜×32.8㎜) 5140万画素 ISO400 (撮影地・スペイン)

ではなぜ多くのプロの写真家が、フォーサーズやAPS-Cではなく、フルサイズのカメラを選ぶのでしょうか。答えは簡単です。銀塩時代から35mm判フィルムを使ってきたので、イメージセンサーも同サイズ、ということからくる安心感です。そして「大は小を兼ねる」という考え方から、生み出されるデータに情報量が多い方が、後々の画像処理が有利になるためです。

加えて、プロとして仕事をする以上、フルサイズのカメラで撮っているとやはりクライアントに対して受けがいいということも少なからずあります。クライアントの人たちが同席するような広告撮影の現場で、10万円そこそこで買えるAPS-Cのカメラを使って写真を撮っていると、何となく肩身の狭い思いがします。中にカメラが好きな人がいたりすると、「えっ、プロの写真家なのに、こんな小さなカメラで弊社の大切な広告の写真を撮るんですか?」と嫌みを言われてしまうかもしれません。

正直な話、今の時代はiPhoneで撮影した画像でも何ら問題なく出版物に使用できるのです。現に欧米の写真家はiPhoneで仕事をする人が増えています。でもこの日本で、高額なギャラをいただけるような仕事の現場に、「今日はよろしくお願いします」とポケットに入れたスマホ1台だけで乗り込んでいく勇気は、どのプロもないでしょう。私もできません。

プロがフルサイズを使う理由はそんな「見せかけ」によるところが大きいのですが、近年、画質の向上と共に、意を決してフルサイズを手放し、APS-Cだけを使って仕事をしたり、作品を生み出したりするプロも確実に増えてきました。

APS-Cになると、カメラはフルサイズより一回り小さく軽くなるので機動性が増し、変化に富む作品を生み出すことが可能になります。また、1枚あたりの画像データサイズが小さくなるので、後々、パソコンでの現像やレタッチ作業が快適に行えるのです。よって、速さが求められる報道などの仕事には向いています。

そしてこの私も、以前はフルサイズに拘り作品を生み出していましたが、今は積極的にAPS-Cのカメラも使うようにしています。ヨーロッパ各国の「最も美しい村」の取材では、APS-Cのカメラをメイン機として使ったことが何度かありました。

もし皆さんが、フォーサーズか、APS-Cか、フルサイズかを迷われた場合、価格、大きさ、重さ、機動面を考慮し、選んでみてください。繰り返し言いますが、皆さんの写真使用範囲内(引き伸ばしてもA3どまり)においては、クオリティの差を感じることはありません。

APS-Cセンサー(23.4㎜×16.7㎜) 1628万画素 ISO200 (撮影地・クロアチア)

中判デジタルカメラ
フルサイズのさらに上には、中判サイズのイメージセンサー(43.8mm×32.9mm)を搭載したカメラがあります。ペンタックス、フジフイルム、ハッセルブラッドなど、銀塩時代から6×4.5や6×7などの中判カメラを作ってきたメーカーが中判サイズのイメージセンサーを搭載したデジタルカメラを製造しています。

中判サイズはフルサイズの約1.7倍の大きさです。さすがにここまでイメージセンサーが大きくなると、写りの違いは歴然です。風景をとらえても、草や木の葉の細部まではっきり写ります。生み出された画像をパソコンの液晶モニターで見ると、深みのある緻密な画質に驚くでしょう。A0やB0のポスターに引き伸ばしても、シャギーが出ることはありません。私は、企業カレンダーの撮り下ろしの仕事では、この中判サイズのイメージセンサーが搭載されたカメラを使っています。

皆さんがよりよい作品を生み出したいと願うのであれば、中判サイズのカメラを選んでもいいでしょう。ただし、カメラ本体の価格は50〜100万と跳ね上がります。あと、1枚あたりのデータ量も大きくなることから、スペックの高いパソコンが必要になってきます。加えて、撮影データを保存するハードディスクも定期的に買っていかなければなりません。毎月のように海外や国内を旅している私は、4〜8TBのハードディスクを毎月3〜4台購入しています。つまりハードディスク代だけで月5〜6万円は掛かる計算になります。

中判カメラは、三脚を使ってじっくりと撮影する風景、静物、料理、建築などに向いています。APS-Cやフルサイズのように、「カシャ、カシャ、カシャ──」という連写は厳しいので、動きのある動物、モデル、スポーツ、電車を撮ることは難しいです。街中のスナップは何とかいけますが、いいシーンに出くわしたときなど、レスポンスが悪いため、決定的瞬間を逃します。かつてパリの街中で中判カメラを使って手持ちスナップを行ったことがあります。路地を歩く女の子が突然風船を手から離し、その風船をお母さんと一緒に追い掛ける、という童話のようなシーンに出くわしました。APS-Cやフルサイズの機動性があるカメラなら、連写していい作品を生み出せたのですが、中判カメラではそれができませんでした。

「やはり田舎道は、軽トラックで走るのがベストだな」と思った私は、以降、中判カメラは、三脚を使ってじっくり撮影する風景撮影のみで使っています。

お金が掛かることや、サッと使えないことには目を瞑り、あくまで作品のクオリティ優先でいきたいという人は、中判カメラを選んでもいいでしょう。

フルサイズセンサー(36㎜×24㎜) 2230万画素 ISO6400 (撮影地・イタリア)

画素数について
イメージセンサーのサイズと切っても切り離せない関係にあるのが画素数です。よくカメラやスマートフォンのスペック紹介で、2000万画素、4000万画素と書かれているのがそれです。

イメージセンサーの表面には、光の強弱を感知し、像を点の情報にして出力するための四角い受光素子が縦横に綺麗に並んでいます。つまりこの集合体の数値が、有効画素数になっているのです。

高画素になればなるほど描写力は向上します。同じ大きさの弁当箱の中に、2000個と4000個の白米が入っているとしたら、たくさんあった方が満腹感は得られるでしょう。それと同じです。しかし、デジタルカメラの場合、画素数の数値だけを追い掛けてカメラの良し悪しを判断するのは危険です。

高画素になると、1画素で取り込める光の情報量が少なくなり、暗い場所、例えば競技場のような室内で高感度にして撮影すると、ノイズが発生しやすくなります。加えて高画素になると、1枚当たりのデータ量も重くなるので、画像生成が追いつかず、1秒間に15コマ、20コマ撮るという感じの高速連写はできません。

そのため、フルサイズセンサーを搭載したカメラでも、スポーツや動物、鉄道など動きのある被写体の撮影を想定して作られているカメラは、2000万画素くらいに抑えられています。例えば、東京オリンピックでの撮影を見越して3社が出してきたプロ用のフラッグシップモデルは、Canon 1DX markⅢが2010万画素、Nikon D6が2082万画素、Sony α9Ⅱが2420万画素となっています。

それとは対照的に、風景やコマーシャルなどの撮影を想定して作られたカメラは、高画素を追求しています。2018年、カナダ政府観光局の「1年間にわたってカナダの魅力を撮る」というプロジェクトで、フジフイルムのGFX50S とGFX50Rという中判カメラを使うことになりました。GFXは、中判サイズ×5140万画素のイメージセンサーが搭載されており、三脚を使ってダイナミックなカナダの風景を撮るにはまさにうってつけのカメラでした。

途中、1億200万画素というとてつもないイメージセンサーが搭載されたGFX100というカメラが新たにラインナップに加わったので、私は早速お借りしてみました。使い勝手は、GFX 50SやGFX50Rとそれほど変わりはありません。むしろ、ボディ内手ぶれ補正機能が備わったお陰で、高画素で危惧されるブレはGFX100の方が抑制できた感じです。

撮影を終えホテルに戻ると、ノートパソコンの13インチモニターで、その日に撮った画像をチェックしてみました。でも正直言って、5140万画素と1億200万画素の画質の違いはわかりませんでした。

1年間の取材が無事に終了。その後開催した写真展で、GFX100を使って生み出されたモレイン・レイクの作品をタタミ2枚分のサイズまで引き伸ばしてみたのです。その仕上がったプリントを目にした瞬間、思わず鳥肌が立ちました。彼方の針葉樹林の枝にとまる野鳥、カヌー乗り場にいる人の帽子のロゴまでわかったのです。カナディアンロッキーの大自然は、肉眼で見て頭の中にインプットしたイメージよりも鮮明でした。「なるほど、これが1億万画素の世界か……」と驚愕したのを思い出します。写真展に訪れた誰もが「まるでカナダにいるみたい……」と目を見張っていました。

中判センサー(43.8㎜×32.9㎜) 1億200万画素 ISO200  (撮影地・カナダ)

普段撮影している海外の風景を、すべてこのクオリティで撮影し、作品として残していくことができたらどんなに素晴らしいことだろうかと思いました。でも私はまだ、このカメラを手に入れるのを躊躇っています。まずは、カメラの価格があまりにも高いということ(ボディ約135万円)。それに1枚あたりのデータ(RAWが約100メガ、JPEGが約70メガ)と重くなるので、パソコンのスペックやハードディスクへのデータ保存のことまで考えると、事務所の財務状況からしては厳しいのです。メーカーの人に、「ユーチューバーにでもなって大儲けしないと無理ですね」と冗談交じりで言っていたことを思い出します。

そう、このように高画素でとらえた画像は、大きく引き伸ばせば引き伸ばすほど、その実力を発揮するのです。残念ながら小さな写真ではその凄さはわかりません。皆さんが、大きなイメージセンサー&高画素が搭載された中判カメラを、子どもの運動会や、家族旅行の記念写真や、年賀状作成のためだけに使うとしたら、まさに宝の持ち腐れになってしまうでしょう。

10年ほど前、デジタルカメラの市場が急成長していた頃は、イメージセンサーの画素数ばかりに注目が集まっていました。カメラの広告を見ても、大きなゴシック書体で「1600万画素Debut!」という感じで謳っていました。何よりその高い数値こそが、コンシューマーを惹きつける「売り文句」になっていたのです。

しかし今は、どのメーカーも大々的に画素数を言わなくなってきています。高どまりしたというより、プロもアマも、2000万画素以上あれば十分、ということを理解しているからでしょう。実は私も、ここ数年、画素数を気にしてカメラを購入したことはありません。「あれ、このカメラの画素数はいくつだっけ」という感じです。

【次号へ続く】

最新情報をチェックしよう!