第25回 青空

空の青さについて

 撮影旅行に出掛ける前にまず気になるのは天気です。「晴れ」「曇り」「雨」の中で、多くの人が望んでいるのは「晴れ」でしょう。では写真撮影において、なぜ晴れは人気が高いのでしょうか。私は、空に「青さ」が宿るからだと考えています。そしてその青さは、生み出される作品の良し悪しに大きな影響を及ぼしているのです。

 空の青さには幾重もの表情があります。雨上がりの空は真っ青ですし、霧やスモッグなどで大気が濁っているときの空は水色です。1日の中でも、朝方や夕方の空は、青の中にうっすらと赤やオレンジ、ピンクや紫などの色彩が混じり、その色は刻々と変化していきます。

 私が空の青さを強く意識したのは、今から32年前、カメラマンになることを夢見てカナダに渡ったときです。バンクーバー国際空港で空を見上げ、「あれっ、随分と色が濃い……」と思いました。カナダは北国です。大気の透明度の高さは、空の色をより美しくすることを初めて知りました。

 標高4000m級の岩山が連なるカナディアンロッキーを訪れたときも、空を見て驚きました。雪山を通して眺める日中の空は、まさに群青といってもいいほど濃い色をしていたからです。そんな青空を、ベルビアという彩度が強調されるフィルムを使い、なおかつ偏光フィルター(PL)で光の反射を除去して撮ると、空の色はより深みを増し、まるで夜のような黒っぽい空の作品を生み出すことができました。写真を見た多くの人から、「カナダの空は本当にこんな色をしているのか……」と言われたのを思い出します。

 数年後、日本に拠点を移した私は、晴れると決まって空の青さを観察するようになりました。東京の青空はカナダよりも若干薄い色をしています。でも例外もありました。台風が過ぎ去った後は、北国に負けないくらい濃い青空が広がり、太陽の白い光が普段より眩しく感じるのです。私はそんな清らかな青空と出会うたびに、「カナダと同じだ……」と懐かしんでばかりいました。

カナダに来てまず驚いたのが、空の青さだった。大気が澄み切っているので、彼方の山肌や森の細部までくっきりと見渡すことができる。

「観光写真」とは

 旅先で出会った風景にカメラを向けるとき、多くの人が画面の中に空を入れた構図にします。緑輝く大地や森に空の青さが加わることにより、色彩やコントラストが強調された目を引く作品が生み出せるからです。また、青空が写り込んだ風景作品は大変人気があり、企業カレンダーや広告などの媒体でもよく使われます。中でも需要が高いのは旅行パンフレットです。

 旅行代理店の店先には、北米、南米、ヨーロッパ、オセアニア、アジアリゾートと、旅行商品を紹介するパンフレットがたくさん並んでいます。表紙には決まって、晴れの日に撮られた写真、いわゆる青空が入った風景作品が使われています。逆に、雨や曇りの作品が掲載されたパンフレットは一つもありません。そのため業界内では、明るくて清潔感がある風景写真を「観光写真」と呼ぶようになっていきました。

 私は20代の頃、ある大手旅行会社から企画パンフレットに使う写真を撮る仕事を依頼され、カナダを拠点に北米中を旅していました。そう、「観光写真」を生み出す仕事をしていたのです。現地に2〜3週間滞在し、晴れるまで辛抱強く待ちます。そして天候が回復したら観光スポットへと出向き、シャッターを切るのです。自然に歩調を合わせていたからでしょう。アメリカでもカナダでもメキシコでもカリブでも、画面の中に美しい青空がある観光写真を量産することができました。

 撮った写真が次々と旅行パンフレットの表紙に採用され、旅行会社の店頭に並んでいきます。私は随分と得意気でした。でも数年後、面白いことに気づいたのです。それは、「取材で生み出した観光写真は、写真集では使えない」ことでした。観光写真だけを並べて本の構成をしてみると、何故か商品カタログのようになってしまうのです。写真集では物語性が重要視されます。つまり美しいだけの風景写真では、本の中でストーリーを組むことが出来ませんでした。

 ある日私は気づいたのです。「日中捉えた青空が強調された観光写真は、旅行パンフレットをはじめ、カレンダーや広告などの媒体のみで完結する」ということに。

 その頃から、私の撮影スタイルは徐々に変化していきました。よく晴れて美しい青空が広がっているときは、「よし、今日は観光写真を撮ろう」という意気込みでフィールドへと向かいます。逆に天気が悪いときは、「写真集で発表できるような作品を生み出しに行こう」という心構えで出掛けるのです。そして今も、このことを常に念頭に置きながら、世界各国、国内各地を巡り、風景作品を生み出しています。

快晴の日、フレンチリバー村にカメラを向ける。このような観光写真は、写真集では使うことができない。

青空に白い雲をプラスする

 よく晴れた日に写真を撮ると、「観光写真」は簡単に生み出せます。では同じ状況下で、写真集に使えるような「作品」は撮れないのでしょうか。実はある要素を取り入れることによって、「観光写真」を「作品」に昇格させることが出来るのです。

 それは「雲」です。だだっ広い青空の中に白い雲を入れて撮ると、当たり前の風景が劇的に変化します。

 空に浮かぶ雲は、表情を変化させながらゆっくりと動いています。その雲をテーマにすることにより、何気ない一枚の風景写真に、モデルさんがポーズを取っているような視覚的な面白さと、画面の中に風が吹き抜けているような臨場感を閉じ込めることが可能になります。

 抜けるような青空が広がっている日、私はまず雲を探します。遠くの空で雲の発生を確認すると、まずはその場所まで行ってみます。雲の近くまで来ると、地上にある対象物と重ね合わせてシャッターを切るのです。カナダのプリンスエドワード島で生み出した「春の小川」や「夏雲」の作品は、偶然この風景を見つけたのではありません。快晴の日に「雲」を求めて島中を巡り、雲の近くにあった民家や灯台と組み合わせてシャッターを切ったのです。どちらの作品も、青空だけだったら、写真集には使っていなかったと思います。

 青空を入れて画面構成しただけでは「観光写真」になってしまう。しかし雲を取り入れることによって、写真集に使えるような「作品」にすることもできる。よく晴れた日は、このことを念頭に置きながら撮影を行ってみてください。

どちらも雲があるから「作品」になっている。仮に青空だけだったら、写真集で発表することはなかった。

【次号に続く】

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