第23回 ホワイトバランス

ホワイトバランスとは

 デジタルカメラには、たくさんの機能が搭載されています。メニューボタンを押すと、そこにはツリー式に各機能の選択項目があり、これを見ただけで「カメラは無理」と拒否反応を示す人も多いことでしょう。でもご安心ください。それらのすべての機能を必要としているのは、一部のプロ写真家と、カメラ好きのアマチュアです。普通に写真を撮るだけなら、搭載されている8割以上の機能は必要ありません。私も15年以上デジタルカメラを使い続けていますが、メニュー画面を細かく見るようなことはほとんどないのです。

 しかし、撮影に必要な最低限の機能は知っておく必要があります。これから幾つかの機能を解説していきましょう。

 フィルムカメラからデジタルカメラに切り替わり、新たに搭載された機能の代表格としてとしてあげられるのが、ホワイトバランスです。写真雑誌に載っている作例のデータ表にも必ず「WBオート」「WB太陽光」「WB曇り」などと書いています。このホワイトバランスというのは、簡単に言ってしまえば、「白を白く映し出す」ための機能のことです。

 地球上にはたくさんの光があふれています。晴れ、曇り、雨などの天候によっても光は異なるし、1日の中でも朝、昼、夕の時間帯で光は刻々と変化していきます。室内の光源は発光ダイオード(LED)に切り替わりましたが、そのLEDも昼光色、電球色といくつかに分かれています。

 真っ白なA4のコピー用紙を、それぞれの光に翳してみてください。日中晴れた日は白く見えますが、夕陽に照らされるとほんのり赤く染まっていることに気づくでしょう。部屋の中でも、昼光灯と電球光では用紙の色が異なって見えるはずです。

 でも私たちは、コピー用紙が「白」ということを知っているので、微かの色の違いは意識せず、コピー用紙は「白」として認識します。友人が白い車に乗って夕暮れ時に訪ねて来たとしましょう。車のボディは夕陽を浴びて真っ赤に染まっていたとしても、「おっ、赤い車を買ったんですね」とは誰も言いません。

 しかしデジタルカメラは違います。微かな光の変化を的確にとらえ、生み出す写真にその色を宿すのです。そう、今の光について的確な答えを出してきます。

 赤っぽい光、黄色っぽい光、青っぽい光、そんな光の違いは「色温度(単位はケルビン)」という数値に置き換えることができます。一般的に、数値が小さくなると赤味や黄味が強くなり、数値が大きくなると青味が増していきます。

 晴れている日中の光の色温度は5500ケルビンくらいです。曇りのときは6500ケルビン。真っ白な車を見ると青っぽく感じるのはそのためです。蛍光灯は4000ケルビンで、電球は3000ケルビンです。部屋を電球色の光源に切り替えると、赤味や黄味が増し、温かみを感じる空間が生まれるのは色温度の数値が低くなってきたからです。

 かつて誰もが使ってフィルムは、またの名を「デイライトフィルム」と呼んでいました。このフィルムは、晴れた日中と色温度を合わせていたので、5500ケルビンでした。だから自然な色味の写真を撮ることができたのです。照明に照らされた舞台やレストラン、インテリアを撮るときは、「タングステンフィルム」を使うことになっていました。このフィルムは電球色に合わせて3200ケルビンで作られていたので、室内で撮影しても自然な色味の写真を生み出すことができたのです。ちなみにタングステンフィルムで晴れた日中の風景を撮ると、すべての写真がブルーになり、それはそれで面白い作品が誕生しました。

ノルウェー、オスロの街。タングステンフィルムで撮影すると、色温度の違いにより全体が青く仕上がった。このような写真は、あくまで「作例」であり、「作品」にはならないと思う。

 フィルムには、デイライトとタングステンの2種類しかありませんでしたが、カラーフィルターを使うことにより、いくらでも色の調整を行うことが可能でした。私も駆け出しの頃、2〜3枚のカラーフィルターを常にカメラバッグの中に入れていました。たとえば蛍光灯に照らされた場所で写真を撮ると、全体が緑色になってしまいます。なぜなら蛍光灯の光には緑の成分が含まれているからです。だから必ずその緑を補正するカラーフィルターを使っていました。

 デジタルカメラのホワイトバランスの変更とは、フィルム時代に多くのプロがやっていた、色温度に合わせたフィルムを選んだり、カラーフィルターを使って色の補正をしたりするのと全く同じことです。それがカメラ内で簡単に出来るようになったというわけです。

ホワイトバランスの選択項目

 まずはメニュー画面から、ホワイトバランスを選択してみてください。太陽光、日陰、曇天、蛍光灯、白熱灯、フラッシュと分かれており、蛍光灯に関しては、LEDに切り替わったせいか、昼光色、電球色など選択項目が5つ以上あったりもします。また、カラーメーターを持っている人のために、色温度の数値を入力することも可能です。

 私はデジタルカメラを使いはじめた頃、このホワイトバランスをマメに切り替え、撮影を行っていました。しかし今は、このホワイトバランスの機能はあまり使っていません。

 たとえ光の状況に合わせてホワイトバランスを切り替えたとしても、撮った直後の画像を液晶モニターでチェックすると、「あれ?」と思うことが多くありました。たとえば曇りの日にホワイトバランスを「曇り」に設定して撮ったとします。すると、多くの作品で色転びが発生するのです。一概に曇りと言っても、多様な表情を持っています。時折薄日がさす曇り、今にも雨が降り出しそうなどんよりした曇り、粉雪がちらつく眩しい曇りなど。そう、ホワイトバランス「曇り」は、それらの変化に対応できませんでした。

 室内で撮影するときも同じでした。旅行会社の仕事で、リゾートホテルの部屋を撮る仕事を行ったことがあります。ホワイトバランスを白熱灯に設定して撮影を行っても、思い通りの作品が生まれないのです。なぜなら今のホテルの部屋は白熱電球だけではありません。LEDの蛍光灯もあれば、まぶしい読書灯もある。そして何より、窓からは燦々と太陽光がさし込んでいます。そのような混合した光の中で、ホワイトバランスを「白熱灯」に固定してしまうと、何とも不思議な色彩の部屋の写真が誕生しました。

 そんな失敗を繰り返していたら、「最初からホワイトバランスを固定してはダメだ」と考えるようになっていったのです。だったらどうするか──。

 幸いどのカメラにも、ホワイトバランスの「オート」が備わっています。これはカメラ自体が今の光を読み、的確なホワイトバランスをはじき出してくれるのです。

 どのカメラも、ホワイトバランスのオートは実に優秀です。刻々と天候が移り変わる野外でも、常に光を読み、ホワイトバランスを決めてくれます。曇りや日陰では青味を取ってくれるし、蛍光灯下で発生する緑も綺麗に除去してくれます。私はいつしかオートしか使わないようになりました。

 もちろん、オートも万能ではありません。状況によっては、時々大きく外します。特に朝夕のマジックアワーやブルーモーメントの時間帯が弱いです。富士山の淡い朝焼けを狙っていたときも、「えっ!?」と思うくらい、激しく色彩が転びました。そこで私はホワイトバランスを手動で「白熱灯」に切り替えて撮影を行いました。そしたら見た目に近い色が出せるようになったのです。

 まずはオートで撮影を行い、液晶モニターに現れた画像を見て、明らかに違うと感じたら、そこで初めてホワイトバランスを切り替えてあげる。どんな撮影でも、こんな感じでいいと思います。

ホワイトバランスに頼らない表現

 本来の色を忠実に再現するホワイトバランスの機能は大変便利ですが、時として写真表現において邪魔になることもあります。

 電球の光に照らされた温かみのある室内に、お年寄りがソファに座って寛いでいるとします。ホワイトバランスを「白熱灯」にすることによって、自然な色で人物作品を生み出すことができるでしょう。でも私は、あえて「太陽光」に設定して撮影を行います。当然お年寄りには赤味や黄色みが増してきますが、作品としては断然その方がいいのです。

 クリスマスツリーを撮るときも同じです。ホワイトバランスを「白熱灯」で撮ることによって、赤味や黄味が強くなり、温か味のあるクリスマスツリーの作品が誕生します。樅の木やデコレーションを忠実な色でとらえてしまうと、カタログ写真のようになってしまうのです。フィルム時代は、ほぼすべての被写体をデイライトフィルムで撮影を行い、赤味や黄味の色かぶりを楽しんでいました。デジタルカメラもそれでいいと思います。

上が「白熱灯」で、下が「太陽光」撮影。白熱灯の方が自然な色に仕上がるが、赤味、黄味が増す太陽光の方が雰囲気がいい。

 また、風景写真、特に自然をとらえた写真では、ホワイトバランスによる表現をしないように心掛けています。たとえばマジックアワーの時間帯の海の風景を撮るとします。ホワイトバランスを切り替えることによって、紫にしたり、ピンクにしたり、青くしたりと、色味をいかようにも変えて写すことができます。確かに目を引く作品にはなるのですが、それはあくまでデジタルで作られた色の世界です。嘘の色の自然では、人に感動を与えることができません。このあたりのことは、今後、マジックアワーやブルーモーメントの撮り方で詳しく書いていきます。

 いずれにしても、ホワイトバランスは「オート」が基本です。カメラが迷っているときだけ、設定を変更してあげましょう。

【次号に続く】

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