【連載・写真のひみつ】第14回 レンズ選び

お勧めの標準ズーム
一眼レフやミラーレスを手に入れただけでは写真を撮ることはできません。カメラはレンズを装着することで、はじめて撮影が可能になるのです。倍率が異なるレンズを交換して使えるというのも、一眼レフやミラーレスの醍醐味と言えるでしょう。

レンズには、低価格帯の「普通レンズ」と、高価格帯の「高級レンズ」があります。高級レンズは、蛍石、UD、ED、非球面などの超高級ガラスが使われ、多層膜やナノテクノロジーを応用したコーティングによって色収差を徹底的に補正しています。そのため、太陽などの眩しい光源を捉えてもフレアやゴーストが発生せず、周辺部までシャープでキレのいい作品を生み出すことが可能です。はじめてカメラを買う人、旅先のスナップや子ども成長記録、日々の料理をテーマにする人などは普通レンズでいいでしょう。写真を本格的にやってみたい、いつかプロになりたいと考えている人は、思い切って高級レンズを選んでみてください。ちなみにプロは高級レンズを使って仕事をし、作品を生み出しています。

フルサイズカメラ、24-70mmF2.8で撮影。高級レンズは素晴らしい描写力を持っている。(撮影地・トルコ)

レンズは「焦点距離」という数値で分類されています。焦点距離とは、レンズ中心の主点から、イメージセンサーまでの距離のことを言います。見た目に近い世界、つまり「標準」と呼ばれるレンズは、フルサイズカメラでは50mmです。この標準50mmを基準として、35mm→28mm→24mmと数値が小さくなると広い範囲が写せる広角レンズとなり、逆に75mm→100mm→200mmと数値が大きくなると遠くのものを引き寄せて写せる望遠レンズとなります。

そしてレンズには、28mm、50mm、200mmというような「単焦点レンズ」と、24-105mm、200-400mmというような「ズームレンズ」の2つのカテゴリーがあることも覚えておいてください。

昔は、カメラを購入したら標準50mmの単焦点レンズ1本からはじめる、というのが基本スタイルでした。しかし今の時代、そんな人は誰もいません。最初からズームレンズを買うのが当たり前になっています。ズームレンズにはたくさんの種類がありますが、その中で初めてのレンズとして人気が高いのが、24-70mm、もしくは24-105mmになります。

ただ一つ注意しなければならないことがあります。ここで言う24-70mm、24-105mmという焦点距離は、あくまで35mmフルサイズのイメージセンサーを搭載した「フルサイズ」と呼ばれるカメラの数値です。つまり、多くの初心者の方が選ぶフォーサーズやAPS-Cのイメージセンサーを搭載したカメラでは、焦点距離が変わってくるのです。

もう少し詳しく解説していきましょう。

仮にフルサイズのカメラにAPS-Cのイメージセンサーを取り付けたとします。サイズが一回り小さくなるぶん、撮れる範囲(イメージサークル)が約1.5倍に拡大されて写ります。つまり、標準50mmレンズで捉えた被写体は、APS-Cセンサーになると75mmレンズを使って撮影したような感じになるのです。だとしたら、APS-C カメラでは標準レンズを75mmという数値で表記した方がいいと思うかもしれません。

しかし、先にお伝えしたように、焦点距離とはレンズからイメージセンサーまでの距離を現しています。つまり、フォーサーズやAPS-Cの小さなイメージセンサーを持つカメラは、カメラ自体が一回り小ぶりになる分、焦点距離の数値は小さくなってくるのです。そのため、フルサイズ用のレンズ24-70mm、24-105mmは、APS-Cでは16-50mm、16-70mmとなります。

ある程度カメラの知識のある人は、このイメージセンサーのサイズと焦点距離の関係は理解しています。しかし初心者は、カメラの種類によってレンズの焦点距離がまちまちなことに戸惑いを感じることでしょう。

私たちプロは、フィルム時代からの流れで、常に35mmフルサイズの焦点距離の数値を基準にレンズ選びを行っています。つまりAPS-C用のレンズを検討する際、表示されている焦点距離×1.5とし、フルサイズの焦点距離に置き換えます。カメラ店のポップや商品カタログには、すでに「35mm換算」と書かれていることもあります。

APS-Cカメラ、16-55mmF2.8で撮影。35mmフルサイズだと24mm-82mmになる。(撮影地・カナダ)

このことを理解した上で、まずは入門機として人気の高いAPS-Cカメラ用のレンズ選びからアドバイスしていきましょう。

初心者はダブルズームレンズキット
APS-Cカメラは売れ筋路線なので、販売スタイルは多岐にわたっています。よく、カメラ量販店やネット通販、テレビショッピングなどで、「ダブルズームレンズキット」という形で、カメラに16-50mm標準ズーム(35mm換算24-75mm)、55〜210mmの望遠ズーム(35mm換算82〜315mm)の2本の普通レンズをつけて売られています。このキットは、カメラとレンズを単品で買うよりも若干安く、仮に型落ちのカメラが組み合わさっている場合、さらにお得に入手することが可能となります。中には、フィルターやSDカード、カメラバッグも加わった入門キットがあったりもします。

初心者は、このダブルズームレンズキットを購入するのがいいでしょう。レンズは何にしようかとあれこれ悩むよりも、カメラメーカーやカメラ量販店が考えた組み合わせに素直に従うのが賢いスタートの切り方です。実は先日、ネットショップを立ち上げたいという友人から、「まずはカメラを手に入れたい」という相談を受けました。給付金10万円が予算とのことだったので、カメラ量販店お勧めのダブルズームレンズキットを提案しました。

では次に、写真を本格的にやってみたい、すでにある程度は知っている、将来プロを目指したい、という方の場合です。おそらくカメラはフルサイズを選んでいることでしょう。となると、高級レンズがいいと思います。

やはり24-70mmF2.8と70-200mmF2.8
最初のレンズとしてお勧めなのは、24-70mmF2.8です。全メーカーから出ており、価格は1本30万円前後です。

何故このレンズがベストかというのには幾つかの理由があります。まず、24-70mmF2.8は、どのカメラメーカーにとっても「顔」となるレンズなので、超高級ガラスを贅沢に使い、最新のコーティング技術を惜しみなく採用することで、極限まで作り込まれているのです。描写力、操作性は共に素晴らしく、欠点は何一つとしてありません。

あと、何と言っても、この24mmから70mmまでという焦点距離がいいのです。見た目に近い世界が撮れる35mmと50mmが含まれ、インテリアに向く24mm、ポートレートに最適な70mmと、日常生活の中で遭遇する6〜7割の被写体はこの一本でカバーできるでしょう。

F2.8という明るい開放絞りもポイントになっています。デジタルカメラは自由に感度を上げられるので開放絞り値は暗くても大丈夫、という考え方もありますが、私はそれについては懐疑的です。様々な撮影現場で「やはりレンズは明るければ明るいほどいい」ということを身に染みて感じています。また、F2.8になると、開放時のボケ味も綺麗です(絞りやボケについては後章で詳しく解説します)

24〜70mmF2.8。最初の1本目のレンズを手に入れることができました。このレンズをカメラに装着して写真を撮っていると、だんだんと望遠レンズが欲しくなってくるでしょう。そこで次に買うレンズとしてお勧めしたいのが、70-200mmF2.8の望遠ズームレンズになります。このレンズもどのメーカーからも出ており、同じく価格は1本30万円前後です。

実はこの70〜200mmF2.8も、24-70mmF2.8同様、メーカーの顔となるレンズなので、先進テクノロジーが凝縮された究極の一本に仕上がっています。描写力は100点満点。私は仕事で全メーカーの70〜200mmF2.8を借りて使ったことがありますが、どれも目を見張るような素晴らしい解像力を持っていました。もちろん私も1本所有しています。

このレンズは、人物写真に最適と言われる70mmからはじまり、風景を撮るときによく使われる125mmと150mmをカバーしています。200mmはかなりの望遠効果が期待できますし、絞り込んでの手持ち撮影も可能となります。

ただし70〜200mmF2.8レンズには一つ欠点があります。それは、大きく重いこと。高級レンズを何枚も使って贅沢に生み出されているので、どのメーカーから出ているズームもずっしりと重く、1.5kg以上です。特に女性は、「何度か使ってみたけど、私には重すぎて無理」と手放してしまう人が多くいます。仮に重量を重視するとすれば、70〜200mmF4でもいいかもしれません。開放絞りがF2.8からF4になるので、若干暗くはなりますが、嬉しいことに、重量(800g前後)と価格(15万円前後)は約半分になります。実は私も、基本歩きとなるヨーロッパの美しい村の取材では、「F2.8は重すぎる」という理由から、F4を使うことがあります。

フルサイズカメラ、70-200mmF2.8で撮影。レンズはかなり重くなるので、街歩きのスナップ撮影では覚悟が必要。(撮影地・トルコ)

24〜70mmF2.8、70〜200mmF2.8かF4。まずは、この2本体制でいいと思います。焦点距離、24mmから200mmをカバーしていれば、9割方の被写体に対応できるでしょう。

実は標準ズームレンズで、もう一本大人気のレンズがあります。それが、広角から中望遠まで約4.3倍のズーム倍率を持つ24〜105mmF4(価格は15万円前後)です。このレンズでF2.8の明るさはありません。開発は可能だと思いますが、レンズが肥大化し、価格も跳ね上がるので、これから先も出てくることはないでしょう。

望遠側が105mmまであることに惹かれ、このレンズを購入して使ったことがありました。でも1年で手放しました。その理由は、標準域でF4という明るさはやはり厳しく、生み出す作品にブレによる失敗が多くなった、というのが一番の理由です。あと、価格差からもおわかりいただけるように、24-70nnF2.8を凌駕する描写力はありません。また、望遠側は105mmまであるので、70-200mmとの焦点距離のダブりが生じてしまい、撮影時、集中力の妨げになるのです。ヨーロッパの村歩きの際、私は事前に被写体を予測し、レンズをカメラに装着します。その時、焦点距離が重なるせいで、24-105mmか70-200mmのどっちにしようかと心が揺れるのです。ズームレンズを2本持つとしたら、焦点距離はダブらない方がいい。そのため私は24-105mmF4を使わなくなりました。

専門分野のレンズ
この他にも、まだまだたくさんの焦点距離のレンズがあります。しかしここから先は専門分野です。撮影を進めていく上で、必要性を感じたら購入していけばいいでしょう。ここでは簡単に、私のスタイルをお伝えしたいと思います。

私が、24〜70mmF2.8と70〜200mmF2.8の次に買うのは、超広角のズームレンズになります。

20代の頃、北米各地を飛び回り、JTBが発行する企画観光パンフレットの撮影の仕事を精力的に行っていました。最も多く撮影したのがホテルです。エクステリア(外観)、ロビー、部屋、バスルーム、バルコニー、アメニティなどを記録していったのですが、その際に使ったのが16-35mmF2.8でした。ホテルの狭い部屋では、16mm、21mmの焦点距離は必須だったのです。

またこのレンズは、人を撮るにも最適です。対象物にグッと近づくと、まるで相手の声が聞こえてくるような迫力ある人物作品が生まれるのです。この広角ズームは各社からラインナップされており、価格は先の2つのズームレンズと同じく、30万円前後です。

フルサイズカメラ、16-35mmF2.8で撮影。三脚を使えない場所では、開放絞りは明るければ明るいほどいい。(撮影地・スロヴェニア)

しかし、ここ数年、プロの中では12-24mmレンズ(価格は40万前後)が大人気です。全域で歪みのない描写が可能になるので、部屋のインテリアや乗物内部の撮影に向いています。私たちが日常生活で目にしている不動産広告は、すべてこのレンズを使って生み出されていると言っても過言ではないでしょう。実は写真集『カルーセルエルドラド』で発表した何点かの作品は、このレンズを使っています。

このレンズの欠点を上げるとすれば、前玉レンズが剥き出し状態になっているため、保護フィルターの装着が出来ないことです。フィルターは使わないにこしたことはないのですが、例えば砂埃があるような場所ではフィルターを装着し、前玉を守りたくなります。よって野外でこのレンズを使うときは、相当神経を尖らせて撮影しなければなりません。また、レンズを落としたら一発でアウトです。ドキュメンタリー、街中スナップなどの場合は、若干小型になり、保護フィルターを装着できる16-35mmF2.8の方が使い勝手がいいかもしれません。

私が4本目に買うレンズは、50mmマクロ(価格は10万円前後)です。マクロレンズを使うと、小さな被写体を大きく撮影することが出来るのです。花や虫、お菓子などをテーマにする人には必須のレンズと言われており、私は職人さんの手元を撮る時などにマクロレンズを使っています。(マクロレンズの撮影倍率については後章で詳しく解説します)

旅や風景、人物をテーマにしている私の場合、この4本で打ちどめとなります。

ポートレート用の明るい80mmF1.4単焦点レンズ、動物用として200-400mmズームレンズなど、気になるレンズがたくさんありますが、資金的なことや使用頻度から、購入するまでには至っていません。必要な時は、カメラ会社やプロ機材レンタル会社から借りるようにしています。(個々の特殊レンズについては後章で詳しく解説します)

フルサイズカメラ、70-200F2.8で撮影。こんな被写体と出会うと、もう少し船だけをアップに撮影したいと思う。300mmか400mmが欲しくなる。(撮影地・トルコ)

レンズ専門メーカーは?
よく一般の人から「レンズ専門メーカー、いわゆるサードパーティーのレンズはどうですか」という質問を受けます。結論から言うと、描写力、操作性ともに全く問題ありません。安かろう悪かろうという時代もありましたが、近年はどのレンズメーカーも、極限まで質を追求し、高級路線へと舵を切っているので、純正レンズに劣らないクオリティーを実現しています。

また、サードパーティー製は、純正にはないレンズを取り揃えていることも魅力の一つです。例えば動画撮影用として人気が高いAPS-C用広角単焦点の明るいレンズ。レンズメーカーからは、16mmF1.4、30mmF1.4がしっかりラインナップされているのです。カメラ量販店の担当者に聞くと、この広角F1.4シリーズはたいへんよく売れているとのことでした。

サードパーティー製のレンズで驚かされるのはその価格です。たとえば24-70mmF2.8や70-200mmF2.8は、カメラメーカー純正レンズの約半額、つまり15万円前後で買うことができます。描写力や操作性は全く変わらないのに、なぜこんなにも安くできるのか。レンズメーカーが薄利多売で売っているのか、もしくはカメラメーカーが価格を盛りすぎているのか。ネットでは様々な憶測が飛び交っていますが、真相は藪の中です。レンズメーカーの台頭はカメラメーカーのレンズの売り上げに悪影響を及ぼさないのだろうかと時々心配になることもありますが、カメラ業界の中では仲良く共存しているので、そんな心配は杞憂に終わるのでしょう。

いずれにせよ、カメラメーカーは、日本人の「純正品好き」というところに支えられているのだと思います。多くの人は、仮に高くても純正品は安心と考える人が多く、最初からサードパーティー製のレンズは選択幅に入らないのです。せっかくフルサイズのカメラを手に入れたのだから高級レンズを装着したい。でも予算的に厳しい、という方は、思い切ってサードパーティー製のレンズを選んでみてください。

さて、カメラを手に入れた皆さんは、24-70mm(APS-Cでは16-50mm)、70-200mm(APS-Cでは55-210mm)という2本のレンズを手に入れることができました。これでようやくスタートラインに立てたのです。

【次号へつづく】

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