【フィルムカメラ 002】EBONY 8×10(エボニー 8×10)

大判カメラ、エボニー8×10(エイトバイテン)を手に入れたのは、今から14年前、2010年の夏です。
それまでは4×5(シノゴ)の大判カメラで撮影を行っていましたが、作品にそれ以上のクオリティを求めるとしたら、やはり8×10を選択するしかありませんでした。
8×10は、銀塩の世界では究極の写真表現です。だからいつかはこの大判カメラを使って作品を生み出してみたいという夢もありました。

そこで思い切って購入することに決め、エボニーの坂梨社長に連絡を入れました。
東京板橋区にあるエボニーの工房へ足を運んで打ち合わせを行いましたが、カメラはカスタマイズが可能ということだったので、僕があまり使わないスイングアオリの機能をカットして、ライズアオリだけのシンプルなカメラを造ってもらうことにしたのです。当時、8×10の大判カメラは60万円くらいしましたが、ライズアオリ専用にすることで若干安くなりました。

レンズを2本購入する
カメラの製作期間は1ヶ月です。その間にレンズ選びを行いました。
かつてフジフイルムが、大判カメラ用のレンズを製造していたのですが、2004年頃に製造を終了してしまいました。
海外メーカーのレンズしか選択幅がなかったので、ドイツ製のシュナイダーに決め、まずは、標準レンズである300mm F5.6(Schneider-KREUZNACH APO-SYMMAR L-72°MC)を1本購入することにしたのです。

この巨大なレンズ、1本60万円くらいしましたが、当時はまだ円高で、消費税は5%。輸入代理店の割引率も高かったので、40万円台で手に入れることができました。

大判カメラの場合、カメラとレンズの他にも、いくつか必要なものがあります。
まず購入したのが四角いレンズボードです。ホースマンの140×140を選び、シュナイダーの300mmレンズを取り付けました。

次は、カメラの後部に取り付けるピントフードです。
8×10の場合、黒い布を被って撮影を行うのが一般的ですが、風のある日は使えません。そこで、エボニーの坂梨社長に相談し、袋型のピントフードを特注で作ってもらうことにしたのです。
このピントフード、皮で出来ているのですが、使わないときは折り畳めます。

8×10用のカットフィルムホルダーは、TOYOというメーカーから出ていました。1個15,000円くらいしましたが、思い切って10個購入しました。

三脚はジッツオを選びました。僕は当時ベルボンを好んで使っていましたが、残念ながらこの大判カメラを支えることができる三脚とプレート雲台がなかったのです。

これらの機材を入れるカメラバッグも必要になってきます。
まずは各メーカーの最大サイズのカメラバックを探してみましたが、この巨大カメラが入るバッグは一つもありません。
そこで、L.L.Beanの大きめのキャリーバッグの中にクッションを入れ、そこにカメラとレンズを固定して、引っ張って移動することにしました。でもこのスタイルだと、足場が悪い自然の中には入っていくことができません。

そこで、カメラザックで知られているラムダにコンタクトして、当時最大サイズの5型をベースに、特注で専用のカメラザックを作ってもらうことにしたのです。
埼玉にあるラムダの工房に足を運び、この8×10カメラを採寸するところからはじめてもらいました。
完成したのが、このカメラザックです。

最初の頃、300mmの標準レンズ一本だけで撮影を行っていましたが、やはり標準レンズだけだとどうしても被写体が限られてしまいます。
そこで、広角レンズが欲しくなり、数ヶ月後に同じくシュナイダーの210mm F5.6(Schneider SUPER-SYMMAR ASPHERIC MC)を手に入れました。
これも輸入代理店を通してドイツから取り寄せましたが、定価で60万円くらい、割引きが入って40万円台で購入した覚えがあります。

ここで一つ、頭を悩ませる問題がありました。フィルターに関してです。

基本、4×5以上の大判カメラのレンズには、フィルターを装着しない形で撮影を行っています。でもさすがにこの二つの高級レンズを、前玉剥き出しの状態で使うのに抵抗がありました。ガリッと擦り傷でもつけたら大変なことになってしまいます。

そこでフィルターを探してみたのですが、300mmの方はケンコーから105mmのフィルター出ていました。
問題は210mmの方です。おそらくフィルター径は135mmだと思いますが、どのメーカーにもこの特殊サイズのフィルターはありませんでした。
シュナイダーから、ネジなしの、138mmのラウンド・ドロップイン・フィルターというのが出ていました。これがいけそうだということを、当時お世話になっていたワイズクリエイトの木戸社長から教えてもらい、4万円くらいで購入した覚えがあります。
レンズへの取り付けは、パーマセルの黒いテープでぐるりと撒いています。

結果として、8×10の機材をフルセット揃えたら、軽自動車1台買えるほどお金がかかってしましたが、当時、思い切ってよかったと思っています。
なぜなら、このカメラとレンズは、いま中古市場で、まったく値が下がっていないからです。むしろ、当時の1.5倍から2倍くらいの価格で取引されており、これからも上がる一方だと思います。

特にこの二つのレンズは、コパルの3番のシャッターが採用されていいます。今の時代、3番のシャッターは日本では手に入りません。今後ますます貴重になってくるでしょう。

3冊の写真集を出版
8×10カメラを手に入れてから、精力的に日本各地を巡って、風景写真を撮るようになりました。
2020年までに、3冊の写真集を出版しています。

最初に作ったのが、モノクロで雪国を撮影した『SEKISETZ 積雪』です。
その次に、全国の観覧車のある風景をテーマにした『KANRANSHA×観覧車』を出版しました。
2020年には、生まれ故郷信州の静態SLを捉えた『SL×信州』を世に送り出しています。

この調子で、これからも8×10の撮影を継続いこうと思っていますが、少しスローペースになってきているのは、やはりフィルム価格が上がってしまったからです。
たとえばフジフイルムのベルビア100、8×10用のシートフィルムが20枚入っています。
以前は一箱2万円以下で購入できましたが、2017年頃から価格は倍になり、そして今は一箱20枚入りで何と95,810円です。
つまり1枚5,000円。一つの被写体で、A面とB面、同じものを撮るので、一つの作品を生み出すのに、現像代を入れて1.5万円くらい掛かってしまうのです。
こうなってくると、よほどの覚悟がないと、8×10での作品作りは難しくなってきます。

しかし8×10は、写真表現において究極の世界です。
だからこれからも可能な限り撮影を継続して、作品を生み出していこうと考えています。

YouTubeの動画はこちら

 

#エボニー8×10 #大判カメラ シュナイダーレンズ #エイトバイテン #8×10大判カメラ

最新情報をチェックしよう!