構図から考える写真集の構成
風景、建築物、インテリア、静物、料理などは、じっくりと構図を練ってから撮影を行います。逆にスナップ、ポートレート、ドキュメンタリーなどは、まずは被写体を確実にとらえ、構図はその直後に決めます。つまり写真の構図は大きく分けて「考えて生み出される構図」と「瞬時に生み出される構図」の二つに分類されるのです。
私は海外の旅に出かけると、両方のパターンで撮影を行うようにしています。実は撮影方法にも大きな違いがあり、「考えて生み出される構図」の方は三脚を使い、「瞬時に生み出される構図」の方は手持ちです。
この構図の違いについて、カナダ、プリンス・エドワード島関連の出版物を例に取ってもう少し詳しく解説していきましょう。
2000年3月に出版した『プリンス・エドワード島〜世界一美しい島の物語』(講談社)は、私の初めての本格的な写真集です。プリンス・エドワード島を10年間追いかけてきた中で生み出した100点あまりのベストショットを使い、島の魅力を余すところなく紹介する作品集を作ってみようと考えました。
撮影はすべて縦横比6:4.5と6:7のフィルムカメラを使って行われています。時間をかけてじっくりと構図を練り、三脚とレリーズを使って慎重にシャッターを切っているので、どれも「考えて生み出される構図」の作品と言えるでしょう。
写真集の構成は頭を使いました。1枚で完結している作品は本としての流れが作りづらいからです。ただ作品を並べて紹介していく形だと、画家が個展開催時に作る図録ようになってしまいます。編集者、デザイナーと協議した結果、春夏秋冬の4つの季節に分け、所々に見開きページを設けて抑揚をつけてみることにしました。見開きの縦横比は1:2です。そのため8点の作品は上下が大きくトリミングされてしまいますが、私は構成上仕方ないと割り切りました。
半年後、デビュー作に相応しい立派な写真集が完成しました。「考えて生み出される構図」の作品をしっかりと見せながら、ページを捲っていくときのワクワク感もあるといった素晴らしい構成です。
1年後、『草原につづく赤い道〜プリンス・エドワード島の12ヶ月』(金の星社)を出版しました。この本は、プリンス・エドワード島の美しい風景と共に、私自身の体験談を紹介していくロードムービーのような構成にしてみようということになりました。
まずはお気に入りの作品を1000点ほど選び、それを800点→500点→300点と絞っていきます。この中には、入江、草原、夏草、樹氷などの「考えて生み出される構図」の作品と、子供、野草、スクールバス、野キツネなどの「瞬時に生み出される構図」の作品がごちゃ混ぜになっています。最終的に200点あまりの作品をデザイナーに渡し、全体の構成を考えてもらいました。
この写真集は、テンポのいい物語を読んでいるようなリズム感を出すことに成功しています。それが出来たのも、色々なテーマやパターンの作品を交互に現れるようにしたからでしょう。
2000年はじめ頃は写真集がたいへんよく売れていた時代です。『プリンス・エドワード島』と『草原に続く赤い道』は、出版後、立て続けに重版がかかりました。どちらの写真集も読者の評価は高く、編集部には毎日のように愛読者カードやファンレターが届きました。
10年後、さらに二つのプリンス・エドワード島関係の写真集を出版しています。『プリンス・エドワード島七つの物語』(講談社)は、すべて「考えて生み出される構図」の作品で構成されており、『プリンスエドワードアイランド』(丸善出版)は、「考えて生み出される構図」と「瞬時に生み出される構図」の作品が混合する形で構成されています。
フランス、イタリア、ベルギー、スペインの素朴な村をテーマにした「ヨーロッパの最も美しい村」シリーズの写真集は、「考えて生み出される構図」と「瞬時に生み出される構図」の作品がどちらも使われていますが、8割以上が「瞬時に生み出される構図」の作品といっても過言ではないでしょう。ヨーロッパの村巡りは、臨場感を出すために、基本、手持ちで撮影を行っています。
日本をテーマにした作品集では、『Sense of Japan』『CEMENT』『Shinshu』『積雪』『観覧車×KANRANSHA』『雪の色』『RIVER 木曽川×発電所』『SL×信州』は「考えて生み出される構図」の作品のみで構成されています。『錦鯉』『カルーセルエルドラド』『STONE 庵治石と生きる匠たち』は「考えて生み出される構図」と「瞬時に生み出される構図」を組み合わせた作品集です。
「瞬時に生み出される構図」のみで構成されている作品集は、『RESPECT』『カスタムドクター〜ソロモン諸島の伝承医』です。
【次号に続く】