【連載・写真のひみつ】第49回 構図09

額縁で見せる
額装は、作品を保護するためだけに行っているのではありません。観る側の視線を作品に集中させ、いっとき考える時間を与える役割も担っているのです。

私は風景を撮影するとき、額装が持つそんな不思議な力を最大限引き出す努力をしています。

カナダ、インディアンリバー村にポツンと建つカトリック教会を訪れると、決まって庭にある白樺の木の下からカメラを構えます。枝葉と下草で聖堂を包み込むような構図にすると、白い教会のコントラストが強調され、存在感が増してくるのです。建物だけだと説明写真になってしまいますが、植物で額縁を作ってあげることにより、撮影者の意図を感じる作品に昇格します。

ベルギー、オブシー村にロマネスク様式のサン・ジェリー教会がポツンと建っていました。村内を歩いていたとき、教会が木や草に抱かれた場所を見つけます。私は三脚に据えたカメラで構図を整え、可能な限り絞り込んで撮影を行いました。絵画のような作品は、こうして誕生したのです。

数日後、シャルドヌー村で生み出した作品も、この額縁のテクニックが使われています。村歩きの途中、視線を感じて振り向くと、草原に一匹の羊が佇んでいました。「なんだ、羊か……」と一旦はその場から離れましたが、やはり写真を撮ろうと思い直し、Uターンして高台に戻ります。でも羊だけではなかなか絵になりません。そこで近くにあった木と組み合わせて撮影してみたのです。レンズの絞りを開放にし、ボケの効果によって羊を際立たせる工夫をしています。

ヨーロッパには、立派な門がある村が幾つも残されています。そんな村を訪れると、決まって門の撮影を行いますが、このとき難しいのは露出です。門に露出を合わせると風景は白飛びし、風景に露出を合わせると門は真っ黒く潰れてしまいます。私はどちらかというと風景に露出を合わせる方を選んでいます。

この他でも、フランス、リヨンス・ラ・フォレ村のバラ園、カナダ、プリンス・エドワード島のグリーン・ゲイブルズの作品など、額縁のテクニックを使って生み出された作品がたくさんあります。

格子窓
20代の頃、「窓」も一つの撮影テーマでした。当時、異国の窓の写真を、企業カレンダーや雑誌の表紙に使いたいという問い合わせが数多く寄せられたのです。窓の作品があまりにもよく動くものだから、いつか窓の写真集を作ろうと考えていました。

洒落たデザインの窓、窓から眺める風景、ガラスへの映り込み、窓辺に置かれた花と、様々なスタイルで窓の撮影を行っていたら、カナダの多くの建物で使われている「格子窓」に、この国の景観の美しさの秘密が隠されていることに気づきました。

日本にも、洒落た洋風建築やログハウス風の民家がたくさんあります。でも窓が一枚のガラス窓に変更されているため、民家があまり素敵に見えてこないのです。だから日本を旅しているときは、昔ながらの和風建築の民家ばかりを撮影し、洋風建築の民家にカメラを向けることはほとんどありませんでした。

格子窓は、屋根や外壁のデザインと調和しています。そして、暮らしの気配を「物語」に変えてくれるのです。私は風景写真の中にも、この「格子」の効果を積極的に取り入れてみることにしました。

ギリシャ、サントリーニ島のイア村で生み出した教会の作品は、格子を強く意識しています。この村にあるどの建物も真っ白にペイントされているので、なかなか個性ある作品を生み出すことができません。そこで教会にカメラを向けたとき、あえて手前にブルーの門をぼかして入れ、構図にちょっとした変化をつけてみたのです。存在感と遠近感を同時に伝えることができました。

写真集『光ふる郷』で発表した2作品も、実は格子を強く意識して撮影が行われています。

陶芸家の友人マルコム・スタンレーの工房は森の中にあります。窓から森をとらえ、秋の彩りの美しさを表現してみようと思いました。彼はよくこの光景を眺めながら作品を制作しています。アーティストの心の内に少し入り込めたような気がしました。

リビングで老人が寛いでいる作品も、格子の効果を上手く利用して撮影を行っています。ソファーに座って本を読んでいるお爺さんは、まるで自分が歩んできた道を回想しているかのようでした。

どちらの作品も周辺部は黒く潰れています。私自身、「黒い額」を意識して撮影を行っているからです。

【次号に続く】

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