構図は十人十色
ビジュルアルアートにおいて画面を構成することを「構図」と呼んでいます。つまり写真を撮るということは、目の前にある世界をカメラで切り取り、構図を生み出していくことにでもあるのです。
旅をしているときに心ときめく被写体と出会ったとします。写真を撮り慣れている人は、シャッターを切る前に構図のこと、つまり「どのように被写体を切り取るか」を考えています。人や動物、電車や飛行機など動いているものはカメラのファインダーを覗いた直後に構図を決め、逆に風景や建物など静止しているものはじっくり時間をかけて構図を練ります。
被写体と対峙したときの構図の作り方は十人十色です。たとえば東京スカイツリーを撮るとしましょう。Aさんはタワーをど真ん中に配置し、Bさんはタワーを右に寄せ、Cさんはタワーを斜めにし、Dさんは空の部分を多くして構図を決めるかもしれません。
私は34年間、世界各国、国内各地を巡りたくさんの作品を生み出してきました。すべての作品は、私なりの構図で風景や人物を切り取ってきた、と言ってもいいでしょう。この章では構図の作り方について詳しく語っていこうと思います。
縦横比(アスペクト比)
写真の構図を語る上でまず頭の中に入れておきたいのが、写真の縦横比(アスペクト比)です。
絵を描くとき自由にキャンバスの形を選べるように、写真も縦横比を変更して作品を生み出すことが可能です。一眼レフカメラやミラーレスカメラで主流となっているのが、3:2という縦横比です。これはすべての35mmカメラでデフォルトの状態で設定されています。
フィルムカメラの6×4.5、6×7、4×5、8×10に近い、4:3という縦横比も人気があります。風景写真をメインテーマとしてきた私は、駆け出しの頃からPENTAX 645というフィルムカメラを使って作品を生み出してきました。この若干縦長になる縦横比に慣れ親しんできたため、デジタルカメラになってからも、4:3の縦横比を持つPENTAX 645ZやFUJIFILM GFX50Rを好んで使っています。ハッセルブラッドなど6×6のフィルムカメラを使ってきた人は、デジタルカメラでは1:1の縦横比、つまり正方形に設定変更して撮影することが多いようです。
また、テレビやYouTubeをはじめとする動画で主流となっているのが、16:9という縦横比です。かなり横長になるため、左右の広い範囲が写ります。私は動画の撮影時、少し戸惑いを覚えながら構図を決めていることも事実です。
画面の隅々まで気を配る
どの縦横比で写真を撮るときも、私は画面の隅々まで気を配り、構図を決めるようにしています。
例えばテーブルの上に置かれたコーヒーカップを撮るとしましょう。何も考えずにコーヒーカップをストレートに切り取ると、上下左右に空間が生まれます。その空間は、上下より左右の方が大きくなっていることがわかります。このちょっとした違いを意識することが、写真では大切になってきます。
次に、コーヒーカップを少しアップで捉えてみてください。すると左右だけに空間が生まれました。コーヒーカップを右に寄せると、左に空間が、左に寄せると右に空間が生まれることがわかります。
最後にコーヒーカップにグッと近づいてみてください。上下左右の空間は消え、コーヒーカップだけの作品になりました。
このようにコーヒーカップという被写体であっても、画面の隅々まで気を配り、つまり空間を意識することによって、コーヒーカップが幾重もの表情を持ちはじめてくるのです。
風景を撮影するときも、これと全く同じことを行っています。
カナダ、プリンスエドワード島の北海岸に、白い灯台がポツンと立つケープトラインという美しい岬があります。私はこの場所で灯台をテーマにしたたくさんのベストショットを生み出してきました。
岬を訪れると、まず目に飛び込んでくるのが草原と海と空です。その出会いの感動をストレートに切り取ったのがAの作品になります。おそらくこの地を初めて訪れる観光客の誰もが、これと似たような作品を生み出すことでしょう。
次に広角レンズに切り替えて、草原の部分を広くした構図で撮影してみます。同じように、空と雲を強調させた構図でもシャッターを切ります。
その後、望遠レンズを使って、灯台をグッと引き寄せて撮影します。灯台の形がはっきりとわかるようになり、なおかつ、海の青さと緑の草の色彩が強調されました。
風景の中に別の要素を入れ、構図にちょっとした変化をつけることもあります。草原のすぐ横に延びる赤土の道を入れて灯台を切り取ってみることにしました。
このように、心ときめく風景と出会ったら、構図を変えて様々なパターンの作品を生み出しておくと、家に戻ってから写真を選ぶときの楽しみが倍増します。写真集『プリンスエドワードアイランド』では、ケープトライオンの灯台の作品を見開きページで紹介しようと思いました。検討した結果、望遠レンズで切り取った作品を使うことにしたのです。
【次号へ続く】