レンズを保護するフィルター
快適な写真ライフを楽しむために、カメラやレンズの他に、もう少し幾つかの物を事前に買い揃えていく必要があります。
カメラはスマホ以上に高価な物です。もしかしたら、手に入れた直後からキズ防止用のカバーを取り付けようと考えている人がいるかもしれません。確かにカメラを衝撃から守るシリコーンプロテクターは売っています。しかし見栄えがイマイチで、使い勝手も悪くなるので、あまりお勧めはしません。カメラを野外で使いはじめるとキズはすぐにつきます。よって、キズなど気にしないことです。以前私は、カナダ取材中に、買ったばかりのカメラをコンクリートの階段からゴロゴロと落としてしまい、ボディをキズと凹みだらけにしたことがあります。最初はショックでしたが、ジワジワとそのカメラに愛着が湧き、結局10年以上も使い続け、たくさんの作品を生み出すことが出来ました。
レンズも同様です。使っているとカメラ以上に傷がついていきます。ただし、前玉と呼ばれているレンズ面の傷にだけは注意してください。レンズについた傷は画質に悪影響をもたらし、仮に前玉を交換するとしたら、修理費用はかなり高額になります。私は過去に1度、24-70mmF2.8の前玉に1.5cmくらいの大きな傷をつけてしまい、前玉の交換修理に出しました。5万円くらい払った記憶があります。
幸いなことに、レンズに関しては、前面にフィルターというものを取り付け、前玉を傷や汚れから守ることが出来るようになっています。すべてのレンズに、フィルター装着用の雌ネジが切られているのです。
フィルターにはたくさんの種類がありますが、まずはレンズを保護する「プロテクター」を購入してください。しかし、そのプロテクターを手に入れようとカメラ量販店に行くと、たくさんの種類があることに驚くことでしょう。レンズの口径が82mmだとしたら、どのメーカーからも2〜5種類のプロテクターが出ています。
例えばケンコー・トキナー(写真用品大手メーカー)のプロテクターは、プレミアムグレード、ハイグレード、スタンダードグレードの3つ分かれています。最高級のプレミアグレード(82mmで約1万円)は、水滴や指紋が付きにくい撥水・撥油コーティング、レンズからの二次反射を軽減する反射防止コート、平面性を確保する特殊な構造、通常のガラスに比べて3倍の強度がある強化ガラスと、まさに高級レンズ顔負けのハイクオリティとなっています。フィルムカメラ時代によく使っていた保護フルターから何倍も価格が跳ね上がってしまいましたが、こればかりは仕方のないことです。デジタルカメラの高解像度化に伴い、フィルターも歩調を合わせていく必要があったからです。
高級レンズを購入したら、必ずプレミアムグレードのプロテクターを選ぶようにしてください。高級レンズにスタンダードタイプのプロテクターを装着するというのは、カメラやレンズが持つ究極の描写力を自ら打ち消してしまうことになります。そう、せっかく手に入れた高額な機材が「宝の持ち腐れ」になってしまうのです。逆に低価格帯のデジタルカメラや、フィルムカメラは、最も安いスタンダードのプロテクターでも問題ありません。私は4×5や8×10の高級レンズには、スタンダードタイプを使って前玉を保護しています。
いずれにせよ、どんなにフィルターのクオリティが上がったとしても、究極の画質を追求にするには、レンズにフィルターを装着せず、前玉を剥き出しの状態で撮影するのがベストです。私はどの高級レンズにも、レンズ保護の目的で常にプロテクターを装着して撮影活動を行っていますが、ここぞという被写体と出会った時は、フィルターを外して撮るようにしています。写真集『Du CANADA』で発表したモントリオール、ノートルダム大聖堂の祭壇の作品は、多方向から差し込む眩しいLEDライトの乱反射が心配だったので、フィルターを外して撮影を行いました。また雨の時も、フィルターなしで写真を撮っています。フィルターの表面に水滴がつくと、そこがぼやけ、シャープな作品が生まれないからです。不思議と前玉につく水滴はそれほど気になりません。
メモリーカード
デジタルカメラで撮影した画像は、データとしてメモリーカードに記録されます。よって、メモリーカードがないと写真を撮ることが出来ません。今の時代、メモリーカードは、どこにでも売っています。カメラ量販店や家電専門店はもちろんのこと、コンビニやスーパーでも入手可能です。多くの人はメモリーカードに書かれている数値は意識せず、「店頭にあるもの」を買っているようです。運動会のある日は近くのコンビニのSDカードが売り切れてしまうという現象がそれを物語っています。スマホやコンデジならごく普通のSDカードでいいかもしれませんが、一眼レフやミラーレスを使って写真を撮るとしたら、もう少し慎重にメモリーカード選びをした方がいいでしょう。
メモリーカードは、容量が大きく、読み込みスピードが早くなるほど、価格が上がってきます。読み込みスピードが早いメモリーカードを買っておけば間違いありませんが、カメラ側がそのスピードに対応してしない場合もあるので、まずは自分のカメラのスペックをチェックするところからはじめてみてください。
メモリーカードには、大きくわけてコンパクトフラッシュとSDカードがあり、現在はSDカードが主流になっています。そのSDカードには、SDカード(2 GBまで)、SDHCカード(4〜32GBまで)、SDXCカード(64〜2TB GB)と容量によって3つの規格に分かれています。スマホやドライブレコーダーはSDHCカードの16 GBで十分ですが、一眼レフ、ミラーレスではSDXCを選んだ方がいいでしょう。ちなみに私は、SDXC の64 GBを使っています。128 GBや256 GBは、何かあったときに大量の撮影データが失われてしまうのが怖く、使用を躊躇っています。だから今でも、128 GBを1枚買うのではなく、64GBを2枚購入するようにしています。
SDカードはデータの転送速度も重要になってきます。その転送速度を調べようとカード表面を見ると、「UHS-1対応」「スピードクラス」「UDMAモード」「VPG」と何やらたくさんの数値や記号、マークが書かれていることに気づくでしょう。基本的には、それらは無視して大丈夫です。特にUHS-1やCLASS10というのはビデオ(動画)撮影用。写真撮影で重要になってくる箇所は、「最大転送速度」です。95MB/秒というような感じで大きめの書体で書かれています。
近年私は、300MB/秒のカードを好んで買っています。しかし、風景など1枚1枚丁寧に撮影していく上で、90MB/秒との読み込みの差はそれほど感じていません。よって、数年前に買った90MB/秒のSDカードも積極的に使うようにしています。おそらくスポーツや動物、鉄道など、連写をする時にそのスピードの違いが活かされるでしょう。
通常のスチール撮影では、90MB/秒以上であれば、何らストレスなく写真撮影を行うことができます。300MB/秒と比べ価格は5000〜8000円程安く買えるので、お財布と相談しながら選んでいくのがいいと思います。
たくさんのカードを持っていくこと
SDカードは、可能な限り数多く持つようにしてください。以前海外取材では、64GBのカードを6枚持って行きました。すべてのカードの容量を使い切ったら、取材先でコンパクトハードティスクにバックアップ。そしてSDカード内のデータを消去して、その6枚を繰り返し使っていました。
しかし今は、海外に行く時、64GBのカードを30枚以上持っていくようにしています。撮影済みデータは、毎日夜にハードディスク、もしくはSSDにバックアップするまでは同じです。しかし、バックアップが終わっても、SDカードに入っている撮影データを消去したりはせず、そのままの形で日本に持ち帰ります。そして東京のオフィスに戻ると、SDカードから全撮影データを3.5インチハードディスクにコピーし、それが終了した時点で、SDカードのデータを消去するのです。つまりSDカードを「撮影済みのフィルムを持ち帰る」という感覚で使っています。
だとしたら、撮影データをSDカードに入れたまま保存していけばいいのではないか、と考える人がいるかもしれません。以前、懇意にしているアマチュアカメラマンのご自宅を訪れたら、過去10年分の撮影データが入ったSDカードが500枚ほどお菓子のケースに入れて保存されていました。その方は言っていました。「SDカードなんか、フィルムに比べれば安いもんだよ」と。
撮影データをSDカードに入れたままの状態で保存するといのは、とても危険な行為です。SDカードへの撮影データ記録は、セルと呼ばれる箱に「0」「1」の電気をためる方式、つまり電池のような感じで行われています。つまり10年、20年とまったく通電しない状態が続くと、自然放電されてしまい、撮影データが見事に消滅してしまうのです。また、写真が必要になる度にパソコンへの抜き差しを繰り返していると、基盤の消耗や劣化によってSDカード自体が破損する事故も起こりえます。やはりSDカードは、撮影の時だけに使う、そして1000回くらい使い回したら捨て、新しいカードを買う、というのがベストです。
あと、SDカードは、名のあるしっかりとしたメーカーのカードを買うようにしてください。輸入商品を扱うショップやネット通販で、容量128GB、300MB/秒のSDカードが2,000〜3,000円という驚きの価格で売られていますが、間違ってもその超格安カードを買ってはいけません。そのカードを使ったことにより、せっかくの旅と写真が台無しになってしまった、という話をよく耳にします。
【次回へ続く】