【連載・写真のひみつ】第11回 カメラ選び

もっといい写真を撮りたい
普段生活をしていると、ありとあらゆる場所で写真を目にします。街中にある広告、駅に貼られた観光ポスター、レストランにあるメニュー、そしてスマホでニュースサイトをチェックすると、記事の中には必ず1〜2点の写真があり、個人のSNSページでもたくさんの写真が使われています。

30年前、すべての写真はフィルムがなければ生み出すことができませんでした。しかしデジタルカメラが使われるようになってから、誰もが簡単にピントや露出が合った美しい写真を撮れるようになったのです。テクノロジーの進化は写真の世界に劇的な変化をもたらしましたが、今も昔も変わらないものがあります。それは、すべての写真は「カメラ」によって生み出され、そして「撮影者」がいるということです。

かつて写真が好きな人たちは、まずはカメラやレンズなどの機材に惹かれ、それから写真の世界へと入っていく人がほとんどでした。実は私もそうでした。中学3年の夏休み、カメラ店で目にした一眼レフカメラに一目惚れをし、猛烈に欲しくなってしまったのです。その時、写真のことなどこれっぽっちも考えていませんでした。写真に感心を抱きはじめたのは、高校の写真クラブに入部し、本格的に撮影活動をするようになってからです。

では今の時代はどうでしょうか。ほぼすべての人が、スマートフォンや携帯電話に搭載されたカメラを持って生活しています。中には毎日そのカメラを使い、子どもの成長記録、料理、花などの写真を撮っている人もいるでしょう。そして多くの人が、スマホのカメラで生み出した写真を、積極的にSNSなどで発表しています。

つまり現代は、昔のようにカメラ機材に憧れて写真の世界に入るのではなく、「もっといい写真を撮りたい」「あの人の写真に憧れた」という感じで、写真をから刺激を受け、写真の世界に入っていく人がほとんどなのです。

スマートフォンに内蔵されているカメラは年々進化しています。画素数は飛躍的にアップし、生み出した写真は何ら問題なくプリントアウトして楽しむことができるようになりました。以前は単レンズのみでしたが、今は広角、望遠といった専用レンズを新たに搭載することにより、いつしかコンパクトカメラを凌駕する写真がスマホでも簡単に撮れるようになったのです。

広角、マクロなどの専用レンズが搭載されたスマホのカメラ。30年前、写真を撮るのにスマートフォンが主流になるとは思ってもみなかった。

しかし、スマートフォンのカメラには限界があります。スポーツや動物など動きのある被写体はまず撮れないし、何よりレンズ交換ができないので、豊富なレンズ群を使って多彩な表現することも不可能です。たとえ画素数が2000万、4000万と上がったとしても、肝心のイメージセンサー(撮像素子)は小指のツメの先くらいの大きさです。写真を液晶画面で楽しむぶんには何ら問題ないのですが、紙で大きくプリントアウトとしたら、やはりスマホで生み出した画像では厳しいのです。

「もっといい写真を撮ってみたい」「今以上に写真が上手くなりたい」と考えている人は、やはり大きなレンズ交換式のカメラが必要となってきます。

「一眼レフ」か「ミラーレス」か
「よし、しっかりしたカメラを買おう!」と勇んで量販店に行くと、まずは各メーカーからたくさんの種類のカメラが出ていることに驚くでしょう。誰もが知るキヤノン、ニコン、フジフイルム、ペンタックス、オリンパスのカメラに混じって、ソニーやパナソニックの家電メーカー、シグマのレンズメーカーから出ているカメラもあり、30年前とは比べものにならないくらい売り場は賑やかな状態になっています。

まずはざっと売り場を一周し、すべてのカメラに目を通してみてください。すると、レンズ交換式のカメラには、「一眼レフ」と「ミラーレス」、この二つの世界があることに気づくはずです。

かつてのフィルムカメラの流れを汲んでいるのが、「一眼レフ」と呼ばれているカメラです。レンズを通して入る像(光)は、カメラ内にあるレフレックスミラーで反射し、その上にあるペンタプリズムに導かれ、撮影者は光学ファインダーで像を確認できます。被写体が肉眼と同じように見えるので、特に手動で行うピント合わせが容易です。シャッターを押すと、レフレックスミラーが跳ね上がり、像はイメージセンサー(撮影素子)へと送られ、写真を撮ることができます。

この十年あまりで急速に台頭してきたのが「ミラーレス」です。言葉通り、レフレックスミラーがないカメラのことを言います。レンズから入った像は、撮影素子がダイレクトで受けとめ、撮影者はそこで生み出されるデジタル画像を電子ファインダーで見る形になります。ミラーレスが出はじめた頃、電子ファインダーの画像は粗く、また表示の延滞もあるため、あくまで像の確認だけにしか使えませんでした。しかし今では、一眼レフの光学ファインダーとさほど変わらない自然な描写が可能になっています。

一眼レフとミラーレスは、ボディサイズの大きさや使い勝手が若干異なるだけで、生み出される写真の画質はまったく同じです。厳密に言うと、ミラーレスは、レンズの後玉とイメージセンサーまでの距離が短くレンズを通してカメラ内に取り込まれた光のロスや乱反射がないぶん、一眼レフより優れた画質が得られるとされています。でもそれはあくまで研究室レベルの話であり、普通に使う分にはその違いの差はわかりません。

左が「一眼レフ」のPENTAX K-1 mark 2 右が「ミラーレス」のSONY α7RⅢ 
左が「一眼レフ」のPENTAX 645Z  右が「ミラーレス」のFHJIFILM GFX 50R

私は、「一眼レフ」と「ミラーレス」、そのどちらも所有しています。そして取材テーマ、旅のスタイルに合わせ、双方の利点を上手く引き出しながら作品を生み出し続けているのです。

以前、ソロモン諸島のジャングルに入り、薬草を使って村人たちの病気を治す「カスタムドクター」と呼ばれる医師の暮らしに密着しました。ジャングルの中は、電気や水道がない過酷な環境です。デジタルカメラを2台持っていくことにしたのですが、何より重視したのはバッテリーの持ちの良さです。私は迷うことなく一眼レフを選びました。一眼レフだと1日1本のバッテリーで十分なので、2週間で14本です。ミラーレスだと、バッテリーは1日で3〜4本は必要。つまり50本以上のバッテリーを持っていかなくてはなりません。現実問題として不可能でした。

ソロモン諸島に持っていった一眼レフのCanon EOS5D mark Ⅲ。バッテリーは8本購入し、キヤノンから8本レンタルした。ミラーレスだと50本は必要になる。これだけのバッテリーを貸してくれるメーカーはないだろう。

カナダで風景を撮るときや、ヨーロッパの村歩きのときは、一眼レフとミラーレスを両方持ち、上手く使い分けています。街や村でのスナップ写真では、一眼レフを使って軽快に風景や人物、料理などを撮影し、薄暗い教会内を手持ちで撮影する時は、ブレが軽減できる電子先幕シャッターがあるミラーレスを使っています。(シャッターについては後章で詳しく解説します)

近年、ミラーレスのみ製造しているソニーやフジフイルムに破竹の勢いがあり、一眼レフは肩身の狭い思いをしています。今後一眼レフはなくなってしまうのではなだろうか……と危惧する人も多いようですが、決してそんなことはありません。一眼レフにはフィルムの時代から培ってきた安定感があるし、光学プリズムファインダーでリアルな像を確認し、機械式のシャッターを切るというフィーリングのよさは、ミラーレスでは決して得られないものです。一眼レフでないと心に響く作品は生み出せない、というプロもたくさんいます。その証拠に、キヤノン、ニコン、ペンタックが製造している一眼レフは着実に売れており、新製品が発表になると予約が殺到します。またペンタックスのように、ミラーレス市場にはあえて参入せず、一眼レフの世界をさらに追求していこうとする拘りのメーカーも出てきました。スマートフォンの台頭により、年々カメラ自体の存在が脅かされていきます。10年後、20年後のカメラ業界の予測ができない今、ペンタックスのように一つの専門分野に特化して商品開発をしていく姿勢こそが、いつの日か勝者になるための条件なのかもしれません。

ここ数年、ソニーのカメラの人気が高いのは、ミラーレス云々と言うよりも、自社開発の卓越したイメージセンサー、Gマスターレンズの解像力、そして精度の高い瞳認識によるところが大きいと思っています。特に動画撮影時において、瞳認識やリアルタイムトラッキングは圧倒的に有利なのです。

数年前、ある地方都市で、写真の撮り方をテーマにしたトークショーを行いました。集まった女性陣の多くが、オリンパスのペンを所有していたのには驚きました。洗練されたデザイン、使い勝手の良さ、有名女優を使った好感度が高いCMが、多くの人の心を掴んだのでしょう。面白いことに、「一眼レフ」と「ミラーレス」の違いを知っている人は誰もいませんでした。このオリンパスのペンは、ここで言う「ミラーレス」の部類に入ります。

【次号へ続く】

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