【連載・写真のひみつ】第47回 構図07

インパクトがある構図
日々の暮らしの中でたくさんの写真を目にします。電車やバスの中には広告写真があふれているし、パソコンやスマホを立ち上げると、ニュースサイトや個人のSNSには山ほどの写真がアップされている。誰もが毎日百枚以上の写真と接していると言っても過言ではないでしょう。

多くの写真は意識の中でスッと流れてしまいますが、中にはドキッとするインパクトが強い写真があったりもします。InstagramやTwitterでそんな写真を出会うと、一時スクロールする手をとめ、見入ってしまうのではないでしょうか。

インパクトがある写真には二つのパターンあります。一つは被写体そのものが衝撃的な写真。そしてもう一つは、ごく普通の被写体を撮影者があえてインパクトが強くなるように撮っている写真です。

私は常に後者のことを考えながら撮影を行っています。どのように撮れば力強い作品になるのか……、写真集を開いたときの驚きをどう表現するか……と、シャッターを押す前に必ず考えます。

インパクトのある作品は、24mm以下の広角レンズを使って撮ると比較的簡単に生み出すことが可能です。

スウェーデンの首都ストックホルムを歩いていたとき、欄干に王冠の飾りを発見しました。普通に撮るとありきたりの説明写真になってしまいます。そこで私はあえて広角レンズを選び、王冠にグッと近づいてとらえてみました。このとき、バックにガムラスタン(旧市街)の夜景を入れることも忘れませんでした。この作品は、写真集『BLUE MOMENT』で発表したのですが、多くの読者から、「かなりインパクトがあります!」という感想をもらいました。

スペインのラ・アルベルカ村の路地で、歴史を感じる水場を見つけました。私は即座に歩みをとめ、この被写体を力強く撮る方法を考えます。広角レンズを装着したカメラをローアングルで構え、シャッターを切りました。もちろん背後には静かな路地を入れ、朝の静かな雰囲気を伝える努力もしました。

カナダ、バンクーバーアイランドにあるレインフォレストを歩いていたとき、目の前に杉の巨木が現れました。この迫力をどう伝えようかと、広角、標準、望遠とレンズを変えて撮影を行いましたが、結局18mmの広角レンズを選び、幹の一部分をアップでとらえてみました。この作品は畳サイズにプリントして写真展「Du CANADA」で発表、多くの来場者を驚かせました。

広角レンズを使うテクニックは、人物を撮るときにも使えます。昔からポートレートは70mm前後の中望遠レンズが最適と言われてきました。特にモデル撮影では、撮影者とモデルとの間にほどよい距離感が生まれ、絞りを開放にすることで、女性を引き立たせる美しいボケ味も得ることができたからです。

私は駆け出しの頃、この教えを忠実に守り、人物撮影用として85mmF1.2のレンズを購入しました。海外取材で必ず持っていくようにしたのですが、結果としてあまり使うことがなく、1年余りで手放しました。その理由は、85mmではインパクトのあるポートレートが撮れなかったからです。確かに人物はフレームいっぱいに収めることができ、ボケ味も美しかったです。しかしどうアングルを工夫しても、作品に力強さが宿りませんでした。

いつしか私は、21mm前後の広角レンズで人物を撮るようになっていました。可能な限り顔をアップにし、左に寄せたり右に寄せたりしながら構図を決めます。すると、どの人物もインパクトが強い作品に仕上がっていくのです。ニューファンドランドで網を投げて蟹を獲ってくれた漁師、林檎の里アナポリスバレーのB&Bで昔話を聞かせてくれたお爺さんも、すべて広角レンズで撮影を行っています。

広角レンズでインパクトのある構図を作っていくテクニックは、風景や人物に限ったことではなく、すべてのジャンルンで応用できます。たとえば花。花はマクロレンズを使ってアップでとらえ、背景をぼかして撮るスタイルが主流です。確かに花は綺麗に撮れますが、作品は植物図鑑に載っているような「よくある花の写真」になります。広角レンズで可能な限り花に近づいてシャッターを切った方が、観る側を「あっ」と驚かせる作品を生み出すことができるのです。

【次回へ続く】

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