第21回 ISO感度

ISO感度とは

 シャッタースピードと絞りの他に、もう一つISO感度(イソ感度)という重要な要素があります。ISO感度とは、フィルムの感光度を100、400、1600というような数値で示したもので、デジタルカメラでも全く同じ数値が使われています。このISO感度は一眼レフやミラーレスはもちろんのこと、コンパクトカメラやスマートフォンにも搭載されており、撮影者が状況に応じて数値を変更できるようになっているのです。

 ISO感度を理解するには、フィルム時代に溯ってみるといいでしょう。

 フィルムの標準ISO感度は100でした。カメラ屋さんに行って「フィルムをください」と言うとほぼ間違いなく100のフィルムを手渡されたのです。しかし店頭の片隅には、400や1600といった異なるISO感度のフィルムも並んでいました。それらを必要としていたプロの写真家やアマチュアたちは、「今日は100の他に400のフィルムも5本買っておこうかな」といった感じで購入していたのです。

 ISO感度は、50、100、200、400、800、1600という百の倍数で表され、シャッターや絞りと同じ露出のステップ幅を持っています。仮にISO100がF4、1/60だとしたら、ISO400にすると、F8、1/125になるのです。つまりISO感度を変更することは、露出を切り替えることでもあります。今のカメラはISO感度のダイヤルが独立していますが、当時発売されていた多くのカメラは、ISO感度の変更は露出補正も兼ねていました。

左は、高校生の頃に私が使っていたフィルムカメラ、オリンパスOM10。ISO感度の変更が露出補正にもなっている。右は、今のデジタルカメラに搭載されているISO感度の物理ダイヤル。

 ISO感度100のフィルムより、ISO感度400のフィルムの方が、絞り2段分、多くの光をとらえることが出来るようになります。そのため、室内で何かを撮影するときは、ISO感度400のフィルムを使った方がいいとされていました。感度を上げると必然的にシャッタースピードも早くなるので、ブレのない写真を生み出すことが可能になるのです。

 野外で行う風景撮影においては、ISO100のフィルムで全く問題ありませんでした。辺りが薄暗くなりシャッタースピードが落ちたとしても、三脚とレリーズを使って撮れば、いくらでも美しい作品を生み出すことが出来たのです。

 風景写真家がISO感度100のフィルムに拘って撮影を行っていたのには、実はもう一つの理由があります。

 ISO感度は、数値が上がれば上がるほど、生み出される作品の画質が粗くなり、ノイズが発生するようになります。100と400のフィルムを比較した場合、400の方がザラッとした感じに仕上がるのです。澄んだ大気を伝えようとする朝焼けや夕焼けの作品では、その粒子の粗さはマイナスになりました。

 当然、ISO感度100よりISO感度50のフィルムの方が、さらにきめ細やかな作品を生み出すことができます。当時、ISO感度50のフジクロームVelvia(ベルビア)というフィルムが大人気で、私もプリンスエドワード島の風景を撮るときに好んでこのフィルムを使いました。

 20代のはじめ頃、日本に戻ってくると、結婚式場やホテルで披露宴を撮るアルバイトを行っていました。会場は十分な明るさがありません。100のフィルムを使うと、シャッタースピードが遅くなり、すべての写真がブレてしまいます。かといって会場内で三脚を使うことは出来ず、当然、ストロボのような眩しい光も嫌がられます。そのため、ISO感度400のフィルムが必須だったのです。400だと1/125以上のシャッターが切れ、手持ち撮影が十分可能でした。

 ちょうどその頃、各社からISO感度1600という高感度フィルムが発売になりました。400の3倍もの光をとらえることができるこのフィルムに、写真愛好家の誰もが興奮しました。屋内競技場で超望遠レンズを使ってアスリートたちを狙うスポーツカメラマン、夜の街中で芸能人のスクープを追い掛ける写真週刊誌のカメラマンはこぞってこのフィルムを使い、名作を生み出していったのです。

 実は私もISO感度1600のフィルムを数本買い、カナダに持っていったことがあります。しかし一度使っただけで終わってしまいました。好きになれなかったのは二つの理由があります。一つは1600という高感度はかなり繊細で、空港のX線検査で感光する恐れがあったからです。あと、画質の粗さはやはり気になりました。400よりもさらにザラザラ感が増し、教会内で撮ったクリスマスミサの作品は、満足のいく仕上がりにはなりませんでした。

ISO感度1600のフィルムで撮影したカトリック教会のクリスマスミサ。粒子が粗く、全く人々の表情がわからなかった。

デジタルカメラのISO感度

 フィルムカメラからデジタルカメラに切り替わってからも、ISO感度の数値はそのまま継承されました。フィルムとイメージセンサーは全く別物なので、別の数値に置き換えた方がよかったのかもしれません。しかし、フィルムカメラと同じ感覚で写真撮影ができた方がいいという理由から、デジタルカメラでも全く同じISO感度の数値が採用されたのです。

 しかしデジタルカメラになり、ISO感度は大きく進化しました。まず、高感度の領域が大幅に拡大したのです。フィルムではせいぜい1600どまりでしたが、デジタルカメラでは3200、6400という数値が誕生しました。

 最初に買ったプロ用の一眼レフデジカメには、何と6400というISO感度がありました。私は感動しました。なぜなら、今までストロボを使わなければ撮れなかった世界が、自然光だけで撮れるようになったからです。カナダの友人宅を訪れるたび、人々の何気ない仕草や表情を、室内光だけで次々と切り取っていきました。2012年に出版した写真集『RESPECT(リスペクト)』には、たくさんの地元の人々が登場します。私の中で初となる人物写真集は、デジタルカメラに高感度が搭載されたから生み出せたのです。

写真集『RESPECT』より。ISO感度を6400に設定し、自然光でとらえている。ストロボを使うと、このやわらかな雰囲気は失われる。

 高感度にも弱点がありました。フィルムと同じように、3200、6400と上がるほど画質が粗くなり、ノイズ出ることでした。

 しかし技術の進歩は目覚ましいものがありました。現在各社のプロ機には、1万を超えるISO感度が当たり前で、中には10万を超えるISO感度を持つカメラもあります。これは、暗闇の中に灯るローソクの光だけで写真撮影ができることを意味しています。同時に高感度の画質も飛躍的に向上し、6400くらいであれば、画質の粗さは全く気にならなくなりました。

 私自身の撮影スタイルも、少しずつ変わっていきました。「ヨーロッパの最も美しい村」の取材では、よく聖堂内を撮ることがあります。以前は三脚を使ってスローシャッターで切り取っていましたが、今はISO感度6400に設定し、手持ちで祭壇や聖像にカメラを向けています。撮影時間が大幅に短縮され、三脚などの機材で信者に迷惑を掛けることがなくなりました。

今のデジタルカメラ

 だとしたら、風景も6400くらいに設定して撮ればいいのでないかと考える人がいるかもしれません。でも現実問題としてそれは不可能です。仮にISO感度を6400に設定して、日中野外で風景にカメラ向けてみてください。絞りをF22に設定したとしても、シャッタースピードは1/4000を優に超えてしまいます。また、高感度の画質がよくなったとはいえ、100や400の緻密な描写力には叶いません。十分な明るさがあってもあえて高感度にして作品を生み出していく手法は、どちらかというとアート作品向きと言えるでしょうか。

 近頃私は、デジタルカメラの標準感度は400という気がしています。100と400との画質の違いは全くと言っていいほどありません。400に設定することにより、速いシャッターが切れるようになるので、カメラブレの抑制に繋がり、結果、失敗が少なくなります。そのため、海外や国内で出会うほぼすべての風景を、ISO感度400にして撮影を行っているのです。たまに100や200で撮ったりもしますが、より粒状性のいい作品を生み出したいという気休めです。

通常はオートで大丈夫

 旅に出ると、シャッタースピードや絞り以上にISO感度の変更を繰り返し行い、作品を生み出しています。特にヨーロッパの村巡りでは、風景、人物、料理、聖堂と、被写体が目まぐるしく変化します。ISO感度の切り替えは必須で、1日に100回以上ダイヤルを動かすといっても過言ではないでしょう。以前はISO感度の「戻し忘れ」というミスがよくありましたが、今はシャッターを切る前に数値を確認する癖がついたので、間違えることはありません。

 今はどのカメラにも、ISO感度の「オート」機能が搭載されています。スマートフォンのカメラは、デフォルトがオートです。被写体に応じてカメラが自動で適切な感度を弾き出してくれますが、オートに頼り過ぎてしまうと、光とISO感度の関連性をいつになっても理解することが出来ません。また、朝夕の光景にカメラを向けたとき、自分の意図しないISO感度に設定されてしまうことがあるので、注意が必要です。

 生み出された作品のエグジフをチェックし、「カメラはこの状況下で幾つの感度を弾き出したのか」を調べてみるといいでしょう。それを繰り返すことにより、光とISO感度の関連性が徐々に見えてくるのです。

【次号に続く】

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