第20回 絞り

絞りとは

 シャッタースピードは、絞りによってコントロールを行います。その絞りは、レンズの中に複数枚の羽根が折り重なるような形で搭載されています。絞りを閉じたり開いたりして光の量を調節し、シャッタースピードと連動することで、適正露出の写真を撮ることがきるのです。絞りを開けるとたくさんの光がカメラ内に取り込まれるのでシャッタースピードは早くなり、逆に絞りを絞ると光の量が少なくなるのでシャッタースピードは遅くなります。

 絞りはレンズ内で常に開放の状態でスタンバイしており、シャッターが押されるのを待っています。絞りの数値の変更は、レンズの外回りにある絞りリングを回転させて行います。レンズ側に絞りリングがないレンズは、カメラ側にある物理ダイヤルを使って絞りの数値を変更すことができます。

 多くの人が、「絞りの変更ダイヤルがあるカメラに、絞りリングがあるレンズを装着したらどうなるか?」と疑問を抱くようです。この場合、レンズ側の絞りが優先となります。カメラ側のダイヤルで絞りを変更したいときは、レンズ側の絞りリングをAの位置に持ってくると自動で切り替わります。

 絞りはF値とも呼ばれており、F2.8 F4 F5.6 F8 F11 F16 F22 F32 F48 F64という数値で表記されています。最初、この中途半端な数字に戸惑うかもしれません。でもすべてのレンズはこの数値が使われているので、一度覚えてしまうと撮影時はスムーズに変更ができます。今のカメラは、F6.3やF9といった中間絞りの表示も可能です。でも私はあえてその機能をOFFにして使っています。昔から慣れ親しんできた数値を使う方が好きだからです。

レンズ側にある絞りリング。数字はあくまで目安で、中間絞りの設定も可能。カメラ側で絞りを操作したいときは、Aの位置に設定すると切り替わる。

明るいレンズの方がベター

 レンズは、24〜70mm F2.8というように、焦点距離と開放絞りがそのままレンズ名になっています。つまりレンズ選びの際、開放絞りの数値が一つの判断基準になるのです。

 F2.8のような解放値が明るいレンズは、レンズの口径が大きくなるので、当然価格が高くなります。開放値F4のレンズは、レンズが一回り小さくなる分、価格はいっきに下がります。開放値F5.6やF8の暗いレンズはさらにリーズナブルになりますが、あまりお勧めはしません。レンズから取り込める光の量が少ないと、早いシャッタースピードを得られないし、何よりファインダーが暗くなります。写真家として駆け出しの頃、解放値F8の超格安望遠レンズを購入したことあります。カメラに装着してみたら、ファインダーが暗く、ピント合わせが困難でした。すぐに手放したのを思い出します。

 さらに明るいF1.2、F1.4といった単焦点レンズもあり、高額であるにも関わらず、たいへんよく売れています。ズームレンズにはこの明るさを持つレンズはありません。設計が難しく、仮に出来たとしても、レンズは巨大化し、価格は100万を超えるでしょう。解放値の明るいレンズは単焦点ならではと言っていいのです。

 ではなぜプロの写真家は、解放値F2.8の明るいレンズに拘るのでしょうか。その理由は、大口径レンズになればなるほど、カメラに多くの光を取り込むことができるからです。光の量を増やすことで、薄暗い場所でも早いシャッタースピードが切れるようになり、カメラブレが抑制されます。ステンドグラスの光に照らされた大聖堂や夜の街中のスナップなどで、私は何度もF2.8のレンズに助けられました。

 解放値の明るいレンズをカメラに装着すると、当然ファインダースクリーンに映し出される像も明るくクリアになります。F1.2のレンズを装着して光学ファインダーを覗いたとき、「世の中はこんなにも明るく美しかったのか!」と感動したことを思い出します。そう、大口径レンズは撮影のモチベーションを高めてくれるのです。

 ただし、開放値が明るいレンズを使ったからといって、明るい写真が撮れるわけではありません。開放値が暗いレンズを使っても、シャッタースピードが遅くなるだけで、写真の写りは全く同じです。あくまでファインダーが明るくなるだけです。

被写界深度

 絞りは明るさだけではなく、ピントが合う範囲を調整する役割も担っています。たとえばファッション誌に掲載された人物写真を見てください。人物だけにピントが合い、背景がボケて写っているとしたら、カメラマンは絞りを「開けて」撮影しているのです。人物にピントが合い、さらに背景までピントがきている場合、カメラマンは絞りを「絞って」撮っています。これが絞りを使ってボケ味をコントロールする撮影テクニックです。

 詳しく解説していきましょう。

 写真を撮るには、まずは被写体にカメラを向け、レンズのピントリングを回転させてピントを合わせなければなりません。ピントが合う箇所は、カメラ内に装着されているイメージセンサーと平行になっている「面」に限られます。

 たとえばすぐ手前にあるリンゴから、遥か彼方にある山まで、等間隔で100枚の紙が並べられているとしましょう。レンズの絞りを開放(開放値F2.8だったらF2.8で)にして、まずは手前にある1枚目の紙にピントを合わせてみます。すると、2枚目から後にあるすべての紙がボケて写ります。次に、50枚目の紙にピントを合わせてみます。今度は1〜49枚の紙と、51〜100枚の紙がボケています。前者を前ボケ、後者を後ボケと言います。当然、100枚目の紙にピントを合わせたときは、1〜99枚すべての紙がボケて写るのです。

 つまり、レンズの絞りを開放にして撮影を行うと、ピントを合わせた面しかシャープに写し出すことしかできません。しかしここで絞りを使うことによって、面白い現象が生まれます。

 開放値F2.8のレンズの絞りをF8に設定し、先ほどと同じように50枚目の紙を撮ってみます。すると、狙った紙はもちろんのこと、その前後にある30〜70枚の紙すべてにピントが合ってくるのです。絞りをF32まで絞ると、何と1枚から100枚まですべての紙にピントがくるようになります。近眼の人が遠くの小さな文字を読むとき、目を細めると判読できるようになると同じことです。この絞りの変化によってもたらされるピントが合う範囲を、「被写界深度」と呼んでいます。

ボケを利用した撮影

 レンズの絞りを解放にしたときのボケは、広角レンズは小さく、標準レンズ、望遠レンズになっていくに従って大きくなっていきます。そのため、ボケ味を生かしたポートレート撮影では、85mmF1.4のレンズがよく選ばれます。

 200mmや300mmになるとさらにボケが強まりますが、人とのコミュニケーションが取りにくくなるので、通常は使いません。私もスタジオで人物を撮影するときは、70mm前後のレンズを使い、相手と会話をしながらシャッターを切っています。

 たとえ広角レンズであっても、ボケ味を生かした撮影はできます。可能な限り対象物をアップで捉えてピントを合わせると、周辺部は綺麗にボケてくるのです。もちろん広角レンズでも、単焦点の明るいレンズになれば、ボケの強さは増します。たとえば16〜35mmF2.8の広角ズームレンズと、単焦点の広角17mmF1.4のレンズを比較してみると、17mmF1.4の方がボケは何倍も美しいことに驚くでしょう。

 可能な限り絞り込んで撮影を行う風景写真において、ボケ味を生かした表現は滅多に行いません。そのため、広角の明るい単焦点レンズの必要性を感じることはありませんでした。しかし、YouTube用の動画撮影を行うようになってから、やはり1本欲しいなと感じるようになってきたのです。

 自分自身が作品集などを解説する動画を撮影するとき、APS-Cのカメラに、24〜135mmF3.5〜5.6のレンズを装着して撮っています。開放値が暗いこのレンズだと、たとえ開放のF3.5で撮影しても、人物の背景はあまりボケないのです。対象物だけを際立たせるには、単焦点の明るいレンズを使わなければダメです。近年、シグマの16mmF1.4と30mmF1.4の単焦点レンズが大変よく売れているのは、低価格という理由もありますが、それ以上に動画撮影用としてこのレンズを求めるユーチューバーがたくさんいるからです。私も真剣にこのレンズの購入を検討しています。

F1.4で撮影。開放絞りにすると、ボケ味を生かした表現が可能になる。

最適な絞り値

 写真を何年も続けていると、レンズの焦点距離と絞りの設定値を見ただけで、「どのくらいのボケ味が期待できる」「どこからどこまではピントが合う」というのが瞬時に解ります。しかしカメラを初めて手にした人は、絞りの設定をいくつにすればいいかで戸惑うことでしょう。

 カメラのモードをP(プログラム)にすると、その被写体に合った最適な絞りとシャッタースピードをカメラが自動で弾き出してくれます。(撮影モードに関しては次章で語ります)だいたいどのカメラも、晴れた野外では絞りF8〜11くらいに設定されるようになっています。レンズ自体も、F8〜11くらいで撮ると、最も高画質&高コントラストの作品が生み出せるように設計されているのです。

 だったらすべての写真をF8〜11で撮ればいいということになりますが、そうなると写真表現が画一化し、ありきたりの作品ばかりになってしまいます。そのため多くの写真家が、自己表現における自分の好きな絞り値というのを決めています。フワッとした作品を生み出す若手写真家は、F1.4〜2.8の開放絞りを好んで使っています。モデルなどの人物を撮る写真家は、F3.5〜4あたりに設定し、絞ってもせいぜいF8まで。街中でスナップ撮影を行う写真家は、絞りF11〜16くらいでしょうか。そして私のような風景写真家は、可能な限り隅々までピントがきた作品を生み出したいと願うので、F22〜32まで絞ります。

回折現象は気にしない

 風景撮影において、絞って手前から奥までピントが合うことを「パンフォーカス」と呼んでいます。広角レンズの場合、ピントを無限大にし、絞りをF11〜16くらいに設定すると、パンフォーカスが効いた作品を難なく生み出せますが、標準、望遠と、焦点距離が上がるに従って、F22、F32と絞り込んでいかなければなりません。

 絞ることによってシャッタースピードが落ちてくるので、当然三脚が必要になります。風景写真家は、十分な明るさがある野外でも常に三脚を使っているのはそのためです。ただ、F22やF32まで絞ることにより、ある一つの問題が発生します。レンズは絞れば絞るほど、周辺部の画質が甘くなっていくのです。この現象を「回折現象」と呼んでいます。

 絞りの羽根は、絞ると小さな点になります。そこに光が通過するとき、羽根の裏側に光が回り込み、その光は微かに拡散します。それが画質に悪影響を及ぼすのです。フィルムの頃は画質の低下はそれほど目立たなかったのですが、何でもシャープに捉えるデジタルカメラのイメージセンサーは、その回折現象を顕著に伝えるようになってきました。

 私自身が絞りF22やF32で生み出した作品には、確かに回折現象が発生しています。だとしたら、絞り過ぎない方がいいのでしょうか。いえ、決してそんなことはありません。

 回折現象による画質の低下は、パソコンのモニターで周辺部を何倍にも拡大してようやく気づく程度で、27inchのモニターに全面表示した状態ではまずわかりません。まして皆さんがよくプリントをするA4やA3のサイズでしたら、回折現象など「まったく気にならないレベル」と言ってもいいでしょう。360dipが基本の写真集や雑誌の印刷物での表現では、さらに曖昧になります。

「回折現状が発生するから、絞り過ぎてはいけない」

 デジタルカメラが普及しはじめてから、このような決めごとばかりが一人歩きするようになってきました。私はこれこそが、写真表現をどんどんとつまらなくしている要因だと考えています。

 だからアマチュアの皆さんも、もし風景をテーマにしたいと思ったら、絞り込むことによって発生する回折現象のことなど頭の隅に追いやり、F22やF32とどんどんと絞ってパンフォーカスが効いた深みのある風景作品を生み出してみてください。写真の教科書に書いてある通りに撮影を行っていたら、いい作品は絶対に生み出せないのです。人の心を動かす写真とは、画質が優れた作品のことを言うのではありません。フォトコンテストでも、画質がいいわるいなど、気にする審査員は誰一人としていないでしょう。

 余談ですが、私は日本風景をテーマにした作品を生み出すとき、8×10の大型カメラに、シュナイダーの210mmと360mmレンズを装着して撮影を行っています。どんな被写体でも絞りはF64しか使いません。このスタイルは、これから先も変わることはないでしょう。

F22まで絞り込んで新潟の風景を撮影。手前の木々から奥の家屋までピントがきている。
下は、黄色い四角の部分を拡大したもの。F11で撮影した作品が、最もシャープなのがわかる。回折現象による画像の低下は、ここまで拡大しないとわからないので、普段の撮影では気にしなくていい。

【次号へ続く】

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