第04回 テーマ「軽トラック」

田んぼからの閃き

 先にご紹介した写真集『Sense of Japan』では、「ゆき」「軽トラック」「黄色」「祈り」の4つのテーマで日本風景を追い掛けました。実はこの中で最も思い入れがあったのが「軽トラック」です。このテーマを見つけるまでの経緯をお話したいと思います。

水音よりも草刈りのエンジン音が、草の緑よりも軽トラックの黄色いナンバープレートが際立っていた。(撮影地・滋賀県大津市)

 約1年間暮らしたカナダから戻り、撮った写真を出版社に売り込んでいた頃です。神保町の大型書店で『たんぼ』という写真集を見つけました。イギリス人の写真家ジョニー・ハイマス氏が、日本各地の田んぼをテーマに作品を生み出し、それを一冊にまとめた風景写真集です。外国人の目を通して見る田んぼは、とても美しく、ロマンチックに描かれていました。

 私はこの本を手にしたとき、強い衝撃を受けました。

 当時、写真集と言えば、「富良野」「白神山地」「上高地」「京都」「タヒチ」「南仏プロヴァンス」といったような「土地」をテーマにした写真集ばかりでした。しかし、地名を使うことなく、「田んぼ」だけで一冊の写真集が形になったことに驚いたのです。

 でも、それ以上に凄いなと思ったのは、写真家が撮影のテーマとして「田んぼ」を選んだことでした。

 信州松本で生まれ育った私にとって、田んぼはすぐ身近にあるものでした。小学生の頃はよく友達と田んぼで虫捕りをして遊んでいたし、高校生の頃は、田んぼの中に延びる農道を通って学校へと通っていたのです。田川高校という名前からもわかる通り、校舎は四方を田んぼに囲まれていました。

 でも私自身、そんな田んぼの写真を撮ろうと思ったことは一度もなかったし、まして撮影テーマにしようとは考えてもみませんでした。

 15年後、「日本を撮ろう」と決め様々なテーマを探りはじめたとき、駆け出しの頃に衝撃を受けた写真集『たんぼ』のことがふと頭をよぎったのです。

〈田んぼのように、何かインパクトがあるテーマがいいな……〉

 その時、真っ先に思い浮かんだのが「棚田」です。でも調べてみると、すでに何人もの写真家が棚田を追い掛けており、たくさんの写真集や棚田巡りのガイドブックが出版されていました。

 少し視野を広げて「里山」というテーマもありました。しかしこれも90年代の終わり頃に大変なブームとなり、何人かの写真家がテーマにし、NHKをはじとするテレビでは、しょっちゅう特集番組が組まれていたのです。もちろん、そんなことはお構いなしに、自分の「里山」を追求すればよかったのですが、やはり一度ブームになったテーマに手を染めるのは抵抗がありました。

 そこで私は、春の信州、北陸を巡る旅で、田んぼを強く意識してみることにしたのです。

 水を張った田んぼが鏡のようになり、周辺の雪山を映し出していました。畦道にはタンポポの花が咲き、つくしが顔を出しています。用水路には水が勢いよく流れ、春の光を浴びキラキラと輝いていました。東京暮らしが長かったせいでしょうか。高校時代はあまり意識することがなかった「自然」にときめいてばかりいる自分がいて、思わず笑みが零れました。

 安曇野から安房峠を越えて富山に入ります。その頃から、すべての田んぼに共通する何かがあるような気がしてきました。一体それは何だろう……と思い起こしてみたら、「軽トラック」だったのす。田植えの時期だからでしょうか、どの田んぼにもポツンと白い軽トラックが停まっていました。

〈そうだ、テーマは軽トラックにしよう!〉

 髙岡のビジネスホテルの部屋で「軽トラック」という閃きがあったとき、飛び上がらんばかりに興奮したのを思い出します。

多くのアマチュアカメラマンが、校庭の中から気球にカメラを向けていた。私は、校庭の外から軽トラックにカメラを向けた。(撮影地・山梨県笛吹市)

 最初、田んぼの脇道に停まる軽トラックだけを追い掛けていました。しかしこの小さな車は、漁村、果樹園、工事現場、商店の駐車場と、日本のどこにでもあることに気づいたのです。田んぼだけに限らず、もっと幅広い視野で捉えてみた方がいい気がし、「日本風景×軽トラック」に軌道修正しました。

 数ヶ月後、「Sense of Japan」の一つのテーマとして軽トラックを真剣に撮りはじめましたが、ある大きな壁にぶつかりました。

 軽トラックを撮影すると、生み出される作品はダイハツやスズキのカタログのようになってしまうのです。真横から撮影したり、斜め後ろから狙ったりとアングルを工夫してみたのですが、なかなかうまくいきません。試行錯誤を繰り返していたら、周辺の風景を主体として構図を決め、軽トラックは可能な限り点景にすると雰囲気のいい作品が生まれることがわかりました。

この風景の中に、3台の軽トラックがある。ロングセラーとなっている『ウォーリーをさがせ!』を少しだけ意識して撮影した。(撮影地・高知県須崎市)

 それから2年後──

 2009年に行った『Sense of Japan』の写真展と同年に出版した写真集で、初めて軽トラックの作品を発表しました。

 写真展会場に来た人から、「この軽トラックというテーマの意味がよくわかりません」と言われることもあったのですが、多くの方は、「これは面白い」「これこそが日本の風景」と絶賛してくれました。

 そして今でも、地方の旅で軽トラックを見つけと、カメラのシャッターを切るようにしています。軽トラックは、日本を代表する一つの風景だと思います。

桟橋で、漁に出た主人の帰りを待つ軽トラック。撮影したのは2008年春。3年後、この場所は東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた。(撮影地・岩手県田野畑村)

【次号へ続く】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA