【連載】写真のひみつ 〜プロの心や技法を解き明かす〜

第一線で活躍する写真家吉村和敏の写真教室です。カメラやレンズの選び方、撮影テーマの見つけ方、風景や人物、料理や小物を撮るときのテクニック、そして、世界を巡る旅や生み出した作品集について、今まで「ひみつ」にしてきたすべてを語ります。

第32回 青い空 2

事前に場所を決めてしまう

 ブルーモーメントの時間帯はおよそ15〜20分です。この間に写真撮影を行うとなると、せいぜい2〜3カットしか撮ることができません。そのため、どの場所で、何を撮るか、を事前に決めておいた方がいい。大切になってくるのがロケーションハンティング、いわゆるロケハンです。

 私はどこにいるときでも、マジックアワーの時間帯にすべてを決めてしまいます。写真集『BLUE MOMENT』で発表している多くの作品は、ブルーモーメントという被写体を偶然見つけたのではなく、1時間以上も前に、「ここで青い空の写真を撮る」と決めていました。

 スウェーデン、ストックホルムを訪れたときもそうでした。午後のまだ日が高いとき、街中のロケハンを行います。マジックアワーの時間帯は旧市街ガムラスタンの路地を、ブルーモーメントの時間帯はシェップスホルメン島へ渡る橋の上からガラムスタンの全景を撮ることにしたのです。

 空に青味が増すと、急いで橋の上に移動します。三脚に設置したカメラで旧市街を捉え、構図を整え、ピント合わせを行いました。空の青さがピークに達したとき、最初のシャッターを切ります。この頃はフィルムカメラを使っていたので、最初の露出は15秒でした。そして30秒、45秒、1分、1秒15秒と、15秒単位で露出時間を長くして、2分まで続けます。露出時間を変えて撮るのは、適正露出がわらないからです。夜景の場合、カメラのオートで適正露出を導き出すのは不可能です。

 念のため、同じことをもう一度繰り返した後、少し場所を移動して、橋の欄干にあった王冠をアップで捉えました。これもロケハンのとき、気になっていた被写体です。その後、対岸のヨットハーバーの撮影を終えたら、空の青味は完全に失われました。結局カメラを向けたのは3つの被写体のみ。でも手応えは十分にありました。

ストックホルム発祥の地ガムラスタン。シェップスホルメン島へ渡る橋の上から全景を狙おうと、事前に決めていた。
24mmレンズを使って王冠をグッと引き寄せて撮影。写真集では、旧市街の夜景と組写真で発表した。

特別な場所

 ブルーモーメントの撮影を行う度に、「もっとブルーモーメントの時間が長ければいいのに……」と感じてばかりいました。

 しかし調べてみたら、ブルーモーメントが3時間も4時間も続く夢のような場所があったのです。白夜がある高緯度地方です。夜でも明るい白夜の季節はブルーモーメントを見ることができません。しかし、白夜がはじまる前と終わりに、ブルーモーメントが一晩中続く時期が存在するのです。

 写真集『BLUE MOMENT』の出版が決まり作品をセレクトしているとき、北欧のブルーモーメントの作品も載せたくなり、私は思いきってノルウェーへ旅立ちました。

 5月18日、首都オスロに到着。まずはレンタカーを借り、北上してベルゲンへ向かいます。22時半頃、夕陽が沈み、マジックアワーの時間帯が訪れます。ブルーモーメントがはじまったのは23時半頃。周りのレストランはクローズし、街中はひっそりと静まりかえっています。私は精力的に木造家屋が建ち並ぶブリッゲンを歩き、建物と青空を組み合わせて写真を撮りました。このまま青い世界が朝まで続くだろうと期待していたら、残念ながら深夜0時を過ぎると空が暗くなります。ベルゲンではまだ緯度が足りませんでした。

 更に北へと車を進め、オンダルスネスという町に辿り着きました。まずはホテルにチェックインし、近くのレストランで夕食を済ませます。その後は部屋で待機。マジックアワーの時間帯、23時頃から町中を歩きはじめました。深夜0時を過ぎると、空は青い色に染まります。その深いブルーは、1時になっても2時になっても失われることはありませんでした。

〈これが一晩中続くというブルーモーメントか……〉

 私はワクワクしながら写真を撮りました。青い世界が継続しているので、当然ロケハンは必要ありません。歩いて写真を撮り、そしてまた歩くを繰り返します。結局、3時頃まで撮影を続け、空が白みはじめたのを機にホテルに戻りました。

 フロントにいたホテルの従業員は、「部屋で快適に過ごせない理由でもあったのか?」と心配してくれます。

 私は興奮しながら言いました。「こんなにも美しい夜の世界を見たのは初めてです」と。すると彼は笑っていました。そう、ブルーモーメントは、オーロラ同様、地元の人々にとってはあまりにも当たり前過ぎて、何の興味も感心もなかったのです。青い夜が地元の人々の心の中に溶け込んでいることがとても素敵でした。

深夜1時頃、誰もいない湖沿いの公園で噴水の光を撮影する。この地方にも白夜の季節が近づいている。

【次号へ続く】