【連載】写真のひみつ 〜プロの心や技法を解き明かす〜

第一線で活躍する写真家吉村和敏の写真教室です。カメラやレンズの選び方、撮影テーマの見つけ方、風景や人物、料理や小物を撮るときのテクニック、そして、世界を巡る旅や生み出した作品集について、今まで「ひみつ」にしてきたすべてを語ります。

第24回 ピント合わせ

オートフォーカスとマニュアルフォーカス

 写真用のどのレンズも、収差を防ぐために凸レンズや凹レンズの組み合わせで出来ています。そのためカメラに装着して写真を撮る際、被写体までの距離を調整して焦点を合わせる、すなわちピント合わせをしなければなりません。しかし今の時代、スマートフォンで写真を撮る多くの人たちが、「ピントを合わせとは?」と質問してきます。無理もありません。スマートフォンのカメラを起動すると、液晶モニターには瞬時にシャープな画像が現れ、シャッターボタンを押すだけで簡単に綺麗な写真が撮れてしまうからです。

 実はスマートフォンのカメラも自動でピント合わせが行われています。その速度があまりにも早いため、多くの人が気づかないだけです。たとえば記念写真を撮ろうと人にカメラを向けると、顔の部分に四角い選択エリアが現れるでしょう。これはスマホが自動で顔を認識し、顔の部分にピントを合わせているのです。

 30〜40年前、フィルム全盛期の頃の一眼レフは、ピント合わせはマニュアル(手動)で行っていました。望遠レンズになればなるほど、ピントの合う範囲は狭くなるので、ピント合わせには相当な神経を使いました。しかし、「ピントを合わせてからシャッターを切る」というのは、一眼レフを使う醍醐味でもあったのです。

 やがて、オートフォーカスが誕生します。被写体にカメラを向け、シャッターボタンを半押しすると、カメラ内、もしくはレンズ内あるモーターが動き、瞬時にピントが合います。オートフォーカス機能は、モデルチェンジの度に飛躍的に進化していきました。動いている被写体を追い掛けてピントを合わせ続けるコンティニュアスの動作と精度が向上すると、「オレのピント合わせはオートフォーカスよりも早い」と豪語していたスポーツカメラマンや乗物カメラマンたちは、次々とピント合わせをオートフォーカスに切り替えていったのです。

 オートフォーカス機能は最初35mm判の一眼レフのみでしたが、1997年、私が海外の風景を撮るときに使っていた中判カメラPENTAX 645にも、ついにオートフォーカス機能が搭載されました。

 私はときめきました。すぐにローンを組んでカメラとレンズ一式を購入、その年のカナダ取材から新しい機材を使いはじめたのです。狙った風景に瞬時にピントを合わせてくれるのは、確かに感動的でした。でも正直言って、「オートフォーカスって本当に必要?」と感じたのも事実です。最初は物珍しさも相まってオートフォーカス機能をONにして写真を撮っていましたが、いつの間にか、ピント合わせはマニュアルフォーカスに戻っていました。それにはいくつかの理由があります。

 一つは、風景撮影において、オートフォーカスでピントを合わせる必要性を全く感じなかったからです。撮りたいと思う被写体の多くは、ピタリと静止している状態です。まずは三脚を設置、そこにカメラを取り付け、ファインダーを覗いて被写体を捉え、構図を決めます。その際、手動でレンズのピントリングを回転させることは、まったく手間ではありませんでした。

 一眼レフの場合、オートフォーカスは、画面の中央部分にある被写体にピントを合わせるという特徴があります。画面横の木にピントを合わせて背後の風景をぼかしたい場合、まずはカメラを横に振って木にピントを合わせ、シャッターボタン半押しでフォーカスロックをし、そして再び構図を整えてシャッターを切る、という面倒な操作が加わります。だったら最初からマニュアルフォーカスで木にピントを合わせた方が何倍も楽でした。

オートフォーカスでは、奥にあるリンゴの花にピントが合ってしまう。風景に関しては、マニュアルフォーカスの方がストレスなく撮影ができる。

 また、旅先で出会った人にカメラを向けるときも、マニュアルフォーカスに拘っていました。オートフォーカスにすると、確かに人の「顔」と「体」に瞬時にピントがきます。でもそのピントが合っている箇所は「目」ではないのです。外国人は彫りが深い顔立ちの人が多いので、オートフォーカスでは瞳にピントが来ません。だから私は人をアップで撮るときは必ずマニュアルフォーカスにし、眼球にビシッとピントを合わせてシャッターを切っていました。人物写真集『カスタムドクター』や『RESPECT』は、すべてマニュアルフォーカスで撮影を行っています。

 つまり、風景も人物も、私にとっては、オートフォーカスよりもマニュアルフォーカスの方がストレスなく素晴らしい作品を生み出すことができたのです。オートフォーカスは「使わない」というより「使えない」でした。

ミラーレスカメラはオートフォーカス

 長い間そんな古風なピント合わせをしてきた私にも転機が訪れました。それはミラーレスカメラの誕生です。ミラーレスの場合、ファインダーはEVF(電子ビューファインダー)になります。つまり小型の液晶モニターを見てピントを合わせると同じことです。EVFは、露出やホワイトバランスの変更が反映された状態で見ることができるので大変便利ですが、ピントの山を掴みにくいという欠点があります。マニュアルフォーカスにした場合、シビアなピント合わせは100%無理、と言っても過言ではないでしょう。一部分を拡大する方法もありますが、動きのある被写体では使えません。

 ミラーレスカメラを使って風景や人物を撮影するときは、仕方なくオートフォーカス機能のみを使うようになりました。

 ただ、優れた点もあります。それはオートフォーカスの「瞳認識」です。そう、人の目に瞬時にピントが合うのです。外国人をアップで捉えるときも、鼻でも眉でもなく、瞳にピントがきます。そのお陰で、一眼レフのマニュアルフォーカス使用時でも時々あった「少しピンが甘い」という失敗がほぼゼロになりました。

 ミラーレスカメラの瞳認識は各社から出ているすべてのカメラに搭載されていますが、当初はソニーのみでした。ご存じのように、ミラーレスカメラ市場はあっという間にソニーが席巻し、今も飛ぶ鳥を落とす勢いで伸びています。さまざまな理由が語られていますが、私は、精度の高い人間や動物の瞳認識をいち早く市場に送り出したことが主な飛躍の原因だと考えています。

オートフォーカスモード

 ミラーレスカメラ全盛期でも、私は一眼レフを好んで使っています。同時に、6×4.5や6×7、4×5や8×10のフィルムカメラでも作品を生み出し続けています。当然、中判や大判カメラはマニュアルフォーカスになりますが、これといったストレスは全くありません。むしろ「ピントを合わせてシャッターを切る」というスタイルに写真を撮る歓びすら感じています。

 ミラーレスカメラ使用時は、二つのオートフォーカスモードを使い分けています。街中のスナップやスタジオで人物を撮影する際は、ワイドトラッキング設定にします。これは画面内にあるコントラストが高い被写体に自動でピントを合わせるモードで、コンティニュアスのときは、フォーカスエリア内を動く被写体を追尾し続けます。もちろん瞳認識はONの状態にしているので、画面の中に人物が入り込むと、瞳にピタリとピントが合います。

 風景を撮影するときは、シングルポイント、もしくは小さめのゾーン設定に切り替えます。構図を決めた後、カメラ背面にあるフォーカスレバーによって、正方形のエリアをピントの合わせたい位置に持っていきます。次の撮影時、エリアが上下左右に移動してしまっていても、フォーカスレバーの中央を1回押せば、エリアは瞬時に中央に戻ります。実によく考えられている機能だと思います。

 状況に応じてこの二つのオートフォーカスモードを切り替えることにより、今まで数多くの作品を生み出してきました。

オートフォーカスは、動きのある被写体に瞬時にピントを合わせ、見えなくなるまでずっと追尾してくれた。

作品とピントの関係

 どんなジャンルでも、作品には撮影者の個性が反映されています。私自身、気持ちがいいくらいにビシッとピントがきている一枚が好きなので、撮影時、ピントを合わせることに関しては特に重要視してきました。

 もちろん旅の過程では、何らかのミスで「ピンボケ」の作品もたくさん生み出されていきます。でも、写真集や写真展の作品セレクトを行うときに、あえてそれらの作品は除外してきました。そう粗選びのときは、真っ先に「ピンボケ」をチェックしてきたのです。

 ギャラリートークなどで一枚の作品を語るとき、使用したカメラやレンズ、露出やシャッタースピードなどが話題になります。ピントに関しては誰も質問してきませんが、私は作品の価値を高める上では、このピント合わせも重要な役割を担っていると考えています。

 今、若い人たちの間では、あえてピンボケにした作品や、1点だけに焦点を合わせてジオラマ風の作品にすることが流行っています。これらもピント合わせを応用した一つの撮影テクニックと言えるでしょう。

F32まで絞り込むと、手前の草から奥の森までピントが合った作品が生み出せる。この場合、撮影時のピントは、メインとなる対象物、干し草のロールに合わせている。

【次号へ続く】