第16回 お勧めの三脚

予備バッテリーと充電器

 一眼レフでもミラーレスでも、バッテリーの予備は必要です。私は海外へ行くとき、バッテリーはカメラ本体に1個入れ、予備で3個、つまり計4個のバッテリーを持っていきます。毎日ホテルの部屋で充電できるとしたら、これだけあれば十分です。カナダでたまに行う3〜4日のキャンプ生活のときは、1日2本使用するとして、掛ける日数分のバッテリーが必要となります。

 カメラ用のリチウムバッテリーは高価なものです。カメラメーカーによって価格は異なりますが、平均して1個8000円くらい。ネット通販では各カメラに対応した格安のバッテリーが売られており、アマチュアを中心にたいへんよく売れているようです。ただこれも、格安のSDカード同様、お勧めはしません。バッテリーは外出先のホテルの部屋で充電することが多くなります。中には電圧が不安定な国もある。充電中に発火でもしたら、取り返しのつかないことになってしまうでしょう。バッテリーは必ずメーカー純正品を選ぶようにしてください。

 バッテリーの予備は2〜3個買うとしても、意外と見落としがちになるのが充電器の方です。充電器はカメラを買うと1つはついています。しかし私は、充電器も必ず予備を買うようにし、旅では2つ持っていくようにしています。過去に1度、取材先で充電器をなくしたことがあります。予備の充電器がなかったら大変なことになっていました。また、夜遅くにクタクタになってホテルの部屋に入り、1分でも早く寝たいときは、バッテリーを2個同時に充電できるというのは便利です。寝る前に2個のバッテリーを充電器にセットします。そして残り2個を朝起きてから充電を行えば、チェックアウトまでに4個のバッテリーの充電が完了します。

三脚は必要

 どんな撮影でも必要となってくるのが三脚です。ファッションやドキュメンタリーなど手持ち撮影がメインの写真家も、三脚は必ずロケに持っていくと言われています。

 朝夕の辺りが暗いとき、または日中でもF16以上に絞り込んで撮影するときなど、低速シャッターになるため、カメラを手持ちで撮影すると写真はブレてしまいます。私は時間に関係なく、たとえ高速シャッターであっても、三脚を使って写真を撮るようにしています。初期の頃の代表作、『プリンス・エドワード島』、『光ふる郷』『ローレンシャンの秋』、光の三部作と言われる『BLUE MOMENT』『MAGIC HOUR』『MORNING LIGHT』、日本をテーマにした『CEMENT』『RIVER 木曽川×発電所』『KANRANSHA×観覧車』で発表したすべての作品は、三脚がなければ生み出せなかったと言っても過言ではないでしょう。

 三脚は、脚と呼ばれる部分と、雲台と呼ばれる部分に分かれています。通常、組み合わさった状態で売られていますが、多くのプロは、三脚と雲台を別々で買い、使い勝手がいいようにカスタマイズしています。

 三脚は重ければ重いほどいい、と言われていた時代もありました。風景写真家は、ハスキーやジッツオなど重厚感あるアルミ製の三脚を使い、作品を生み出していたのです。私は駆け出しの頃、そんな巨匠たちのスタイルに憧れ、いわゆる「プロが使う重い三脚」を買ってみました。しかし、その年に行った最初のカナダ取材でギブアップ、帰国後に物置に入れてしまいました。

 巨匠たちは、重い三脚をアシスタントに持たせ、撮影前のセッティングもすべて彼らに任せていたから、使うことが出来たのでしょう。ストックフォトライブラリーが元気だった頃、風景写真家たちは年間5000万円以上稼いでおり、中には1億円を超えている人もいました。よって当時のプロは、2〜3人のアシスタント抱えることくらい簡単にできたのです。

カーボン三脚が主流

 1994年、フランスのジッツオが、脚の部分にカーボンファイバー(炭素繊維を重ね樹脂でコーティングした材料)を使った三脚を発売しました。カーボンは、軽く、剛性が高く、振動抑制に優れていると言われています。飛行機やレーシングカー、宇宙関連の機材ではこの素材が使われていましたが、価格が高く、加工が難しいことから、一般的ではありませんでした。しかし、ジッツオのカーボン三脚が高額でも大変よく売れたことから、日本メーカーのベルボン、スリックも追従し、いつしかカーボン三脚が主流になっていったのです。

 カーボン三脚がブームになっていた頃、カメラ量販店の三脚売り場に行くと、店員や三脚メーカーの社員によるデモンストレーションが盛んに行われていました。

「いいですか。今から脚の部分に衝撃を与えてみます。アルミの三脚はビヨ〜ンと振動しますが、カーボン素材はピタッと固定したままです。どうです、この振動の吸収力は凄いでしょう。そしてアルミの三脚に比べて30%も軽いのです。カーボン三脚がこれからの主流になることは間違いなし。そこのお兄さん、使ってみませんか?」

 まだ若く、他人の意見を素直に受け入れてばかりいた私は、販売員の提案に瞳をキラキラさせながら「はい!」と元気に答え、その場で8万円もするカーボン三脚をローンで購入してしまいました。大抵、咄嗟の思いつきで買った製品は残念な結果に終わります。しかしこのカーボン三脚に限っては、心の底から「いい買い物をした」と思いました。軽いのでカナダの旅が快適になり、心なしかブレのないシャープな写真が生み出せるようになったのです。もちろん今もカーボン三脚を使って作品を生み出しています。25年間で買ったカーボン三脚は、15本以上になるでしょう。

 カーボン三脚が主流の今の時代でも、もちろんアルミの三脚は製造されています。1〜2万円の低価格帯の三脚に限られていますが、たとえプラス2〜4万払うとしても、カーボンの三脚を選んだ方がいいでしょう。ネットでは、カーボンとアルミのメリット&デメリットが詳しく解説されています。でも私に言わせれば、アルミがカーボンより優れている点は何一つとしてありません。

 三脚の脚と呼ばれる部分には、3段と4段があります。携帯性を考えると、よりコンパクトになる4段の方がいいのですが、私は撮影時に少しでも早く三脚をセットアップしたいので、3段の方を使っています。脚の固定は、ナット式とレバー式があり、もちろん私はレバー式を選んでいます。レバー式は緩みやすいと言われていた時代もありましたが、今はそんな心配は杞憂です。むしろナット式は、開け閉めのときに力を加え過ぎてしまうので、故障する確率が高くなります。イタリア取材初日にスポッと脚が抜け、2週間ガムテーブで固定した状態で三脚を使い続けました。

左が4段のレバー式、中が3段のレバー式、右が3段のナット式。私が好きなのは真ん中の3段レバー式。

 三脚の上には雲台がつきます。この雲台は、パン棒一つの「1ストップ式雲台」、パン棒二つの「3ウェイ式雲台」、ヘッドがどの角度にも動く「自由雲台」に分かれています。そしてプロとアマの8割以上の人が、自由雲台を選んでいると言われています。

 私は、パン棒が二つの「3ウェイ式雲台」を好んで使っています。風景や建築物の撮影では、水平垂直にかなり神経を尖らせて構図を決めます。その際、右手と左手で操作できる二つのパン棒があると、瞬時に完璧な構図を導き出せるのです。ただし移動の際は、パン棒の部分が出っ張っているため、携帯性が悪くなるというデメリットがあることも事実です。

 あまりに多くの人たちが自由雲台を使っているのを見て、私も何度か買って使ってみました。しかし自由雲台だと、どう頑張っても瞬時に水平垂直を出すことが出来ないのです。撮影の度にイライラし、すぐに使うのをやめてしまいました。やはり三脚にはパン棒が2つある「3ウェイ式雲台」がいい。何十年も継続しきた撮影スタイルを、そう簡単に変えることは出来ませんでした。

左が、私がお気に入りのパン棒が2本ある3ウェイ式雲台。中が自由雲台。右が、近年最も売上を伸ばしているビデオ用雲台。ユーチューバーは、ビデオ用雲台を買っている。粘性のある特殊グリスが入っているオイルフリュード機構を搭載しているので、動画の撮影に向いている。

便利なクイックシュー

 カメラを雲台に取り付けるには、雲台から出ている雄ネジ(U1/4規格)を、カメラ底部にはある雌ネジにねじ込んで固定します。そのためすべてのカメラに、三脚用のネジ穴が空いているのです。しかし、この雲台のネジをクルクルと回してカメラを取り付けている人は、プロやアマにはほとんどいません。多くの人がクイックシューと呼ばれるものを雲台と三脚に取り付け、ワンタッチでカメラを雲台に固定しています。

 そのクイックシューは、メーカーによって形状が異なります。以前私は、各メーカーのクイックシューをすべて買い、どれが最も使い勝手がいいのかを検証してみました。その結果、ベルボンのクイックシューが、最も素早く装脱着でき、がっちりと固定できることがわかりました。以降、ベルボンのクイックシューを、35mmカメラはもちろんのこと、4×5や8×10でも使っています。

ベルボンのクイックシュー。すべてのカメラに取り付けられているので、50個以上はあるだろう。

 私は事あるたびに、「ベルボンのクイックシューがお勧めです」と言い続けてきました。実際に使った人からも、「確かに素晴らしい、コスパも高いですね」という感想をもらっていました。しかし世の中の流れは異なっていたようです。いつしかアルカスイス互換のクイックシューが世界標準になっていました。

 アルカスイスとは、スイス生まれ、フランス育ちのカメラメーカーです。最高品質の4×5インチ大判ビューカメラを製造しており、以前私も大型カメラ選びをしていた際に、憧れのカメラとして購入を検討したことがあります。そのアルカスイスが、大判カメラを三脚にがっちり固定するために生み出したのが、アルカスイス雲台です。アルカスイスのクイックシューは、二つの木材を繋ぐ時の蟻継ぎのような感じで、八の字のプレートを八の字のクランプでがっちり挟んで固定する方式です。固定力、安定性、信頼性はトップクラスと言われていますが、アルカスイスが製造する雲台は、カメラが一台買えるほど高額です。このアルカスイスの形状を世界中の三脚メーカーが採用し、いわゆる「アルカスイス互換タイプ」と呼ばれるクイックシューが次々と生み出されていったのです。頑なに採用を拒んでいたベルボンが、アルカスイス互換の自由雲台を出したときは、ちょっとしたニュースになりました。

 今日本でも、多くの写真愛好家がアルカスイス互換タイプのクイックシューを使っています。では何故、ベルボンでもスリックでもマンフロットでもジッツオでもなく、アルカスイスになってしまったのでしょうか。原因の一つが、ネット通販にあるのではないかと考えています。

 新しいカメラを手に入れると、多くの人が横位置と縦位置を瞬時に切り替えることができるL字プレートを購入します。このL字プレートは、新しいカメラが出るとすぐに中国の写真用品メーカーが、そのカメラにぴったり形状を合わせたL字プレートを作り、Amazonなどで販売をはじめます。それらはすべてアルカスイス互換です。カメラに取り付けるL字プレートはどうしても欲しい。でもすべてがアルカスイス互換。だったら仕方ない、その受けとなるアルカスイス互換タイプの雲台を買うか、という感じになってしまうのです。

左がアルカスイス互換の雲台。右が、カメラに取り付けるL字プレート。新製品のカメラの形状に合わせたL字プレートを、中国の写真用品のメーカーはすぐに出してくる。まるでスマホのケースのように。このスピードに、他の三脚メーカーは太刀打ちできなくなってきた。L字プレートは、すべてアルカスイス互換。

 私も徐々にアルカスイス互換のクイックシューを使うようになってきました。正直な感想として、固定力は全く問題ありませんが、装脱着時の使い勝手は極めて悪いです。ベルボンのクイックシューの方が何倍も優れているという考えに変わりはあません。

 2020年7月、ベルボンは、三脚事業をハクバ写真産業に譲渡しました。ブランドは継続するとのことですが、今後も魅力的な新製品が出てくるのかは今の段階ではわかりません。私はこれからも、今あるベルボンのクイックシューを使い、作品を生み出していこうと考えています。

【次号に続く】