【連載】写真のひみつ 〜プロの心や技法を解き明かす〜

第一線で活躍する写真家吉村和敏の写真教室です。カメラやレンズの選び方、撮影テーマの見つけ方、風景や人物、料理や小物を撮るときのテクニック、そして、世界を巡る旅や生み出した作品集について、今まで「ひみつ」にしてきたすべてを語ります。

第54回 撮影テクニック 03

人物を点景で撮る

 カメラのファインダーで風景を捉えていると、よく人が入り込んでくることがあります。多くの撮影者は「ちぇっ」と舌打ちし、ファインダーから目をそらして写真を撮ることをやめてしまうでしょう。でも私は、小さく「ラッキー」とつぶやき、そのままファインダーを覗き続け、何枚もシャツターを切ります。なぜなら、風景と人物との組み合わせは、ときとしてベストショットに繋がることを知っているからです。

 誰かがやってきたら、まずはその人の動きをじっくりと観察します。歩いたり止まったり、上を見たり下を見たりと、人は常に動いています。そんな中、必ず絵になるポーズを取る瞬間があるのです。顔を上げて彼方の風景を見つめたり、写真を撮るためにスマホを構えたり、女性だったら髪をかき上げたり……。そう、その決定的な瞬間を狙ってシャッターを切ります。

 私は世界を巡る旅の中で、風景の中に人物が点景で入っている作品を数多く生み出し、写真集でも何点か発表してきました。いくつか思い出に残る作品を振り返ってみましょう。

 カナダ、ペギーズ・コーブは、海に沈む夕陽を眺めるスポットとして人気があります。私はこの岬にやってくると、少し高台でカメラを構え、花崗岩の上にポツンと佇む灯台を狙います。この日、真っ赤な夕陽が岬全体を染め上げました。灯台の周りにはたくさんの観光客が歩いています。しかし私の視線は、岩の上に腰かけて海を眺めている一人の若者に注がれていました。
〈彼だけで画面構成をしたいな……〉
 ファインダーを覗いた状態で辛抱強く待ちます。すると、他の観光客がフッといなくなる瞬間が訪れたのです。私はすかさずシャッターを切りました。

 イギリス、コッツウオルズの丘の上にあるブロードウェイタワーの写真を撮っていたとき、カメラを構える私の横をカップルが通り過ぎて行きました。二人とも背が高く、まるでモデルのような体型をしています。タワーの近くまで行った二人は、しばらくはタワーを眺めたり、雑談したりしていたのですが、不意に立ちどまり、沈む夕陽に視線を投げたのです。その瞬間を私は見逃しませんでした。

 生まれ故郷信州をテーマにすると決めたとき、カメラは4×5の大型フィルムカメラを選びました。姥捨山にある棚田で野焼きの煙にときめいた私は、まずは三脚にカメラをセットし、アオリ機能を使って水平垂直を整え、フォルダにモノクロフィルムをセットしました。レリーズを使ってシャッターを切ろうとしたとき、突然フレーム内にお爺さんが入り込んだのです。私は構わず写真を撮ります。後日フィルムを現像してみたら、お爺さんはしっかりと写っていました。

 大型カメラの場合、レンズの絞りはF45に固定しているので、シャッタースピードは1/4まで落ちています。そのためお爺さんが少しブレてしまいましたが、逆にそれが臨場感ある作品に繋がりました。写真集『Shinshu』の表紙を飾った一枚は、こうして生み出されたのです。

多くの作品は合成です

 風景の中に人物がポツンと入り込んでいる作品は、広告の世界では人気があるようです。銀塩からデジタルに切り替わった頃から、雑誌の広告、企業カレンダー、広報誌の表紙などでよく目にするようになりました。

 でもそれらの作品の多くは、合成によって生み出されているようです。風景の中に人物を加えることは、フォトショップなどのレタッチソフトを使えば簡単にできます。双方の色やトーンをぴったり合わせることも可能なので、一見すると合成したことがわからないような完成度の高さです。

 かつて合成写真は批判の対象でしたが、今はそれを悪く言う人は誰もいません。企業や制作サイドにとっても、「ポツンと写っている人物はモデルを使っているので肖像権に関してはクリアしている」という安心感もあります。

 私はまだ一度も、合成によって作品を生み出したことはありません。風景+人物の組み合わせでも、ナチュラルな表現に拘っています。理由は簡単です。狙った風景に偶然人が入り込み、「ベストショットが生み出せるかも……」と期待を抱きながらシャッターを切る行為がたまらなく好きだからです。また、いつか人物が点景となっている作品のみで写真集を作りたいという夢があるからです。

【次号に続く】