【連載】写真のひみつ 〜プロの心や技法を解き明かす〜

第一線で活躍する写真家吉村和敏の写真教室です。カメラやレンズの選び方、撮影テーマの見つけ方、風景や人物、料理や小物を撮るときのテクニック、そして、世界を巡る旅や生み出した作品集について、今まで「ひみつ」にしてきたすべてを語ります。

第52回 撮影テクニック 01

あえて太陽光を入れて撮る

 よく晴れた日、私は青空に輝く太陽を入れて写真を撮ることがあります。キラッとした白い光源は、何気ない風景をドラマチックに演出する役割を担っているからです。

 しかし太陽光をプラスすると、写真が台無しになってしまうことがあるので注意が必要です。まず露出が難しい。太陽は通常の風景に比べ5倍以上の明るさを持っているので、カメラに内蔵されている露出計は太陽光に引っ張られ、他の部分がアンダーになってしまうのです。そのため、太陽にカメラを向けるときは、露出補正ダイヤルを+3〜+5に設定してシャッターを切らなければいけません。太陽とその周辺部分は完全に白とびしてしまいますが、かろうじて星形は残るので、作品になったとき太陽が輝いているとことはわかります。

 家屋や聖堂などの建築物を撮影するときも、私はよく太陽を利用しています。建物にカメラを向けたら、屋根のひさしの部分からほんの少しだけ太陽が顔を出すアングルを探します。光を1/3くらいに絞ると、宝石のようにキラッと輝くのです。このくらいの光量であれば全体の露出にそれほど影響は与えません。

「ヨーロッパの最も美しい村」の取材では、この太陽光を少し入れるというテクニックを使い、よく聖堂や時計台の撮影を行いました。写真集の扉ページには、このようなインパクがある作品が似合います。

フレアやゴーストを気にしない

 太陽光にカメラを向けると、光が白い線になったり、楕円や五角形に拡散することがあります。これはカメラに装着されているレンズによって引き起こされる現象で、フレア、またはゴーストと呼ばれています。もちろん、人間が太陽を見ても、フレアやゴーストは発生しません。人の目はいかに素晴らしい「レンズ」を持っているかがわかります。

 カメラやレンズメーカーの技術者たちは、フレアやゴーストの発生を抑えるために研究開発を続けています。近年は、ナノレベルのレンズコーティングを施したり、高級レンズを何枚も組み合わせることによって、その厄介な光を極限まで押さえ込むことが出来るようになってきました。各メーカーから出ている1本30万以上する高級レンズでは、フレアやゴーストはほとんど発生しません。しかし100%抑え込む、つまり人の目と同じレベルまで持っていくのは、今の技術ではまだ難しいようです。

 実のところ、私はフレアやゴーストの発生はあまり気にしていません。むしろこの光とレンズの悪戯を好意的に捉え、被写体の一部として受け止めています。

 なぜなら、フレアやゴーストが入った作品はとても人気があるからです。例えばカナダ、プリンス・エドワード島で生み出したこの雪原の作品。太陽光は外していますが、逆光で捉えているため、右上から左下に向かって大きなフレアが出てしまいました。私はあえてこのままの状態で撮影を行ったのです。すると、冬の大地に天からの光が射し込んだような神々しい作品が誕生しました。このベストショットは、ダイキン工業の企業カレンダーをはじめ、数多くの媒体で使われました。

 別の日、ニューグラスゴウ村の丘の上から教会にカメラを向けたときも、大きなフレアが発生しました。私は気にすることなく、あえて縦位置の構図にして、その神秘的な光の帯を強調するような形で撮影を行ってみたのです。この作品は、写真集『草原につづく赤い道』で発表し、大きな反響を呼びました。

 撮影時のコツは、フレアやゴーストを主題と重ねないようにすることです。ファインダーで捉えた太陽光の位置を少し移動させると、フレアやゴーストの形や大きさも変化していきます。実際自分の目で見て確認しながら、構図を練っていくといいでしょう。

 どんな被写体を狙うときも、レンズフードを使って太陽光を遮り、フレアやゴーストを抑え込むというのが正しい撮影方法です。もちろん私も、レンズには必ず大型のレンズフードを装着して撮影を行います。しかし、あえてフレアやゴーストを入れた状態でも写真も撮るようにしているのです。光の悪戯は、思わぬベストショットに繋がるからです。

【次号に続く】